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概要:トヨタとJAXAがオールジャパンで行う月面探査プロジェクトが姿を現した。希望にあふれた宇宙船のような装備をもつ月面ローバーには、さまざまな新しい技術が必要になる。そのリスクとコストを考察してみよう。
「オールジャパン」月探査の要となる、トヨタとJAXAが開発する有人月面探査車のイメージカット。
3月12日、トヨタ自動車の寺師茂樹副社長と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の若田光一理事/宇宙飛行士は、「有人月面探査車(ローバー)」の共同開発について発表した。
トヨタを先駆けとして、今後は多様な民間企業を呼び込み、「オールジャパン」で月探査を行うという。
長らく計画縮小が続いてきた日本の月探査が、トヨタというパートナーを得て一気に動き出した。有人宇宙探査、宇宙ステーションと輸送機開発も関係し、いくつものプロジェクトの見通しが実感できるようになった。
プロジェクトにあたって2機のローバーを同時に開発し、10年後の2029年に打ち上げる目標だ。さらに、2030年以降に宇宙飛行士による月面5箇所の探査を実施する。既報で紹介したJAXAによる「有人月面探査」の予圧ローバにほぼ相当するものとなった。
JAXAの若田光一理事/宇宙飛行士と、トヨタ自動車の寺師茂樹副社長。
月面探査は、アメリカ航空宇宙局(NASA)が中心になって進める月近傍有人拠点(ゲートウェイ)を拠点に行われるもので、地球からNASAの大型ロケット「SLS」と「オライオン宇宙船」に乗ってゲートウェイに到達。着陸機で月面に降り、ローバーへと乗り換えるというものだ。探査終了後は再度ゲートウェイを経由して地球に戻る。
2人乗り、1000km走行できる「住める」月面探査車
トヨタが公表した月面ローバーのイメージ。
提供:JAXA
トヨタが公表した月面ローバーの検討案によると、仕様は以下のようになっている。
月面ローバーは「マイクロバス2台分よりやや大きい」程度。全長6メートル、幅5.2メートル、高さ3.8メートル
1台は重量6トン以内、最大時速20キロメートル程度で走行
乗車可能人数は宇宙飛行士2名(緊急時には4名)が搭乗
13立方メートル(四畳半程度)の空間に居住して、1回あたり地球時間42日間の探査を行う
という案だ。
水と酸素を使った水素燃料電池(FC)をエネルギー源として使用し、水・酸素満充填で1000キロメートルの走行ができるという。1回の探査ミッションでの走行は往復2000キロメートル前後が検討されており、5回の探査ミッションでトータルで1万キロメートル近く走ると考えられている。
月面ローバーに必要な技術は、月面の過酷な環境で人が安全に生活し、探査を行うためのものだ。月の表土は「レゴリス」と呼ばれる細かい砂であり、タイヤを取られてスタックしやすい。NASAのアポロ計画の月面ローバーでは、専用のタイヤを米グッドイヤーが開発したことで知られるが、寺師茂樹副社長は「ブリヂストンに意見を求めた」と述べた。
課題は「過酷な環境」と「燃料」
カセット式燃料電池と、搭載イメージ。
JAXA
人が42日間にわたって居住できる設備を持つだけに、これまでの月面ローバーとはまったく異なるサイズ感を想定している。
真空で、地球よりはるかに放射線量が多いため、「宇宙飛行士を守る宇宙船同様の防御性」が求められる。温度環境は非常に過酷で、日中は120度、夜はマイナス173度にも達する。しかも、月の1日の長さは地球の28日に相当するため、昼と夜がそれぞれ地球時間の2週間続くことになる。
日本が推進する水素燃料電池は、越夜と呼ばれるこの極低温環境を乗り切るためにも有効だ。1000キロメートルを走行するエネルギー量を元に検討したところ、次世代リチウムイオン電池よりも小型軽量で、エネルギー効率に優れていると試算されたという。
日中には、太陽光発電による蓄電池も合わせて使用する。エネルギー源となる水と酸素は当初のミッションでは地球から運ぶが、将来は月の極域にあるとされる水を利用して、「現地生産」する構想だ。
月面という極限環境で人を安全に運ぶビークルに挑むトヨタの挑戦は非常に意欲的だ。予圧室を備えて、「人が暮らせる」宇宙ローバーが実現した例はこれまで世界になく、検討段階のものでも「世界初かもしれない」(JAXA担当者)はいう。
トヨタとJAXA、宇宙産業の「コストとリスク」
JAXAによる月近傍有人拠点(Gateway)の解説資料。
JAXA
これだけの大型宇宙開発計画への参加は、トヨタの中でどのように生まれたのか。
検討がスタートしたのは2018年5月ごろ(トヨタ自動車およびJAXA有人宇宙技術担当者コメント)。寺師副社長は「社内の若手が楽しそうにやっていたので」と語り、トヨタ社内で自然発生的に生まれたプロジェクトであるようだ。今後、社内で参加者を公募し、最終的には数百人規模のプロジェクトになる可能性があるという。筆者の私見では、JAXAからトヨタに就職した例もあるなど、これまでの人的交流もよい方向に作用したと思われる。
さて、これだけの大型開発の費用はどの程度になるのだろうか。JAXAの公式には、計画はまだ検討段階で、政府による実施のコミットメントである宇宙基本計画の工程表にも入っていない。
予算はまだついておらず公式の費用概算もないため推測になるが、国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」の総開発費が見積もり段階で3000億円弱、スペースXによるISSへの有人宇宙船開発でのNASAとの契約額が26億ドル(約2900億円)だ。月面を走行するか、地球低軌道で利用されるかの違いはあっても、有人宇宙船開発と考えればこの規模がスタートラインだろう。
開発に影響を及ぼすリスクはどうだろうか。
まずは、先行する月探査計画の実現だ。「10年あっても検討は足らないかもしれない」(寺師副社長)という大型計画を実現させるには、月面走行技術を獲得し、月の水資源を確実に見つける先行計画の実施が必須だ。
同じ3月12日に、JAXAからISS参加5カ国による月近傍有人拠点計画の推進が発表されていること、欧州と共同の月広域探査「ヘラクレス計画」にトヨタも参加し、何らかの技術実証を行う可能性があるとの寺師副社長コメントから、月探査計画は段階的にきちんと実施されるものと見られる。
ただし、有人月探査計画で宇宙飛行士、ローバーの両方の輸送を担うのがNASAの超大型ロケットSLSだ。SLSは初打ち上げが2017年→2018年→2019年→2020年と毎年のように遅延している。開発コストの増加も批判を受けている。日本側ではコントロールのできない要因であり、2020年半ばの初打ち上げが懸念とともに注視される。
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