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概要:安倍外交は、北朝鮮に対して対話路線に転換したが、経済制裁は延長する方針だ。このことで日ロ交渉と同様、「安倍外交」は行き詰まっている。
安倍外交は、対ロ政策に続いて北朝鮮政策でも従来の高いハードルを下げ、対話路線に転換した。
だが北朝鮮は依然として安倍批判を止めず、北朝鮮関係筋は「対日外交の優先度は依然として低く、直接対話実現には程遠い」と突き放す。
自民党内からは「安倍4選」の声が上がるが、今の任期内にロシアと北朝鮮外交で局面打開する展望は開けそうにない。
日本の制裁延長に不快感
周辺各国より遅れて北朝鮮との対話路線を打ち出したが……
Tomohiro Ohsumi/Getty Image
菅官房長官は3月13日、日本政府が2018年まで続けてきた対北朝鮮非難決議案の提出を見送る方針を表明した。米朝首脳会談が物別れに終わり、「北朝鮮は日本に接近してくるのでは」との期待から「直接対話に向けた環境作り」とも受け取れる動きだ。
しかし在京の北朝鮮関係筋は、「政府は対北独自制裁を2年間延長する方針を明らかにしています。制裁を少しでも緩和するならともかく、何のための(対話)環境作りか。現段階では(直接対話は)程遠い」と、制裁延長に不快感をあらわにした。
「非難決議案」は2008年から提出し続けており、提出見送りは思い切った方針転換。対ロ政策で従来の「4島返還」から、歯舞・色丹の2島返還に事実上方針転換したのを思い起こさせる。
しかし、朝鮮中央通信は3月16日、安倍政権は拉致問題を提起することで「歴史的な責任と義務から逃れようとしている」との批判論評を発表、安倍政権への名指し批判を続けている。
対ロ政策と共にブレ続け
安倍政権は対ロ政策でも2島返還に舵を切り前のめりになるが、ロシア側の態度は急速に冷えている(写真は2019年1月22日、モスクワで)。
Alexander Nemenov/Pool via REUTER
北朝鮮にとって、制裁解除こそ何よりも先行させねばならない。2月の第2回米朝会談が物別れに終わったのも、核施設査察と国連制裁決議の解除という双方の要求が釣り合わなかったからだ。
北朝鮮は軍事と経済の「並進路線」をやめ、経済建設路線に転換した。
経済建設には制裁決議の解除が必須で、この点は韓国の文在寅政権も立場を同じくする。北朝鮮外務次官は核協議停止の検討をちらつかせたが、西側世論を意識した「揺さぶり」だろう。
在平壌中国大使館に勤務した経験のある中国研究者は、「経済集中路線への転換は経済大国建設というより大きな目標達成のためであり、過去のように再び出発点に戻ることはない」と指摘する。対話路線に変化はないということだ。
安倍政権の対北朝鮮政策は、対ロ政策と共にブレ続けてきた。韓国と北朝鮮が2018年2月の「平昌冬季五輪」を機に、融和と対話に舵を切り、首脳会談を実現しても「必要なのは対話ではない。圧力だ」と、制裁一辺倒を継続。6月の歴史的な米朝首脳会談の直前まで、硬直した対北圧力路線を変えなかった。
ようやく方針を変えたのが2018年9月の国連総会での安倍演説。「金正恩委員長と直接向き合う用意がある」と、初めて直接対話に前向き姿勢を打ち出した。
先の中国研究者は、「日本は拉致問題を政治利用しているのではないか。核・ミサイル問題を含め、朝鮮半島の変化に積極的にかかわろうとせず、受け身で否定的」と批判する。
「パッシング」真剣に受け止めよ
平昌五輪に出席する各国の首脳たち。韓国と北朝鮮がこれを期に対話に舵を切っても、日本は制裁一辺倒を継続した。
Carl Court/Getty Image
さらに、この研究者は日本は地域の大国として「特別な役割」を果たす責任があると指摘する一方、「日本は拉致問題の解決を優先しすぎて、局外に置かれつつある。日本無視(ジャパン・パッシング)の状況を真剣に考えるべきだ」と強調した。日本の地位低下を見抜いた発言だ。
6年あまりに及ぶ安倍外交を振り返れば、「外交の安倍」というキャッチコピーとは裏腹に、国際舞台で日本の存在感と発言力が低下した6年だった。対ロ、対北政策転換は、地位回復の焦りを感じる。
しかし、いずれも小手先の方針転換の足元を見抜かれ、思い通りの成果は上がっていない。
日本の順番は最後
ベトナムで行われた米朝首脳会談。現在の北朝鮮の最重要課題は、アメリカとの関係改善だ(2019年2月28日)。
Vietnam News Agency/Handout/Getty Image
安倍政権の関係改善へのサインを、平壌はどう受け止めているのだろう。
冒頭の北朝鮮関係筋は「朝鮮赤十字会は2月末、遭難した北朝鮮漁船の船員に日本が人道的援助を提供したことに謝意を表するコメントを出しています。これは関係改善サインに対する一つの答えでしょう」とみる。
しかし、物別れに終わった米朝首脳会談を受け、この関係筋は「アメリカとの間で、非核化と制裁解除をめぐる交渉を続けるのが最重要課題。その環境作りのためには、韓国をはじめロシアや中国との対話を進める必要がある。日本の順番は最後」。
2019年は金委員長のロシア初訪問と習近平・国家主席の北朝鮮初訪問が実現する可能性が高い。対米交渉を有利に展開するためにも「後ろ盾」との関係強化を急がねばならない。
対日外交の優先度は依然として低く、関係改善の道のりは遠い。
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岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。
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