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概要:米アップルが「Apple Card」を発表した。アップルがクレジットカード事業参入に至った背景と技術的バックグラウンドについて、分析も交えて整理する。
カード番号や有効期限などはカード券面には刻印されないため、カード情報そのものをオンライン決済などでは利用できない。
Apple Cardは、ゴールドマンサックスをイシュアとして、Mastercardのブランドを冠してサービスが提供される。Apple Payに登録した場合には、Mastercardのネットワークを通じて決済が行われる。年間のカード維持費が無料のほか、アメリカ国外で利用した場合に徴収されるサーチャージなども適用されず、実際の購入額を超えた徴収は行われないところに特徴がある。
またApple Pay同様にアップルはユーザーの利用動向に関知せず、イシュアのゴールドマンサックスで蓄積されるデータも外部には出さないことを明言した。この点の安全性が他のサービスと比較した際のセールスポイントとなる。
もう1つの特徴として、各ユーザーに発行されるチタニウム製の物理カードには利用者の名前とAppleロゴしか刻印されていない、というものがある。カード番号や有効期限、セキュリティコード(CVC)、サイン欄などは存在しないため、「カード番号が盗まれて悪用されにくく」なっている。
実際には内部的にカード番号等が割り振られており、その情報は内蔵のICチップに書き込まれているため、チップそのものをハッキングされない限りは安全だ。
Apple Payではもともとカード自身が持つ番号が相手に直に開示されない仕組みとなっているが、これをApple Cardでは物理カード上でも実現しているわけだ。物理カードは、リアル店舗において、非接触通信に対応しない決済端末で利用することになる。
一方でチタニウムのような金属カードは、電波を遮断する性質があるため、欧州などで一般的なNFC機能をカード上に実装することはできない。そのため、ロンドンのTfL(ロンドン市の交通局)が運用する交通サービスのように、非接触通信しか受け付けない端末では利用できず、Apple Payを利用する必要がある。
したがって、基本的にはApple Payをメインで利用し、それが使えない場面では物理カードという形で使い分けていくことになる。
Apple CardはGoldman Sachsがイシュアに、カードブランドはMastercardで提供される。
分析:Apple Cardは「お得」なのか?
「Apple Cardそのものがお得か」という視点で同サービスを見たときはどうだろう。1~3%というキャッシュバックはお得のようにも思えるが、実際には同種の還元率を提示するサービスはアメリカでは数多存在する。だから、Apple Cardだけが特に魅力的というわけではない。
例えば下記は筆者が2019年2月末にBank of Americaから受け取ったDMだ。
筆者が普段Apple Payで利用しているBank of AmericaからのDMも、Apple Card同様に1-3%の還元をうたうカードの契約を促している。
同社のカードではターゲットを指定して3%還元を利用できる。さすがに全カテゴリの買い物で2%を適用できるわけではないが、生活パターンによってはこちらのほうがお得というケースも多い。しかも、カード契約時に150米ドルのキャッシュバック特典まで、このDMでは提示されている。
以上を踏まえてApple Cardを現時点で得られる情報から評価すると「アップルファンのためのステータスカード」という側面が見えてくる。
前述のように、アップルからの買い物では必ず3%還元が受けられ、チタニウム製のAppleマークが刻印されたカードを利用できる。カードは当初発行枚数が限られ、しばらくの間は入手が比較的困難になるだろう。
ゆえに最初のころは「物理カードを持っていること自体がステータス」という状況になると予想する。アップルファンを自社ブランドのクレジットカードのエコシステムに取り込むための施策であり、その意味でアップルのサービス転換戦略を象徴する存在の1つといえる。
Apple Card
また別の側面として、いまだ普及の進まないApple Payのテコ入れ策であるという見方もある。
現在アメリカでは、同国で発行される銀行ATMカード(デビットカード)の大部分がApple Payに登録できるため、利用開始のハードルそのものはそれほど高くない。一方で、前述Squareが言うように、Apple Payを含む非接触決済のシェアは全カードトランザクションの1割程度にとどまっており、アメリカでのiPhoneシェアが3割超であることを考えると低い。
iPhoneを使って簡単に申し込めるApple Cardの仕組みを利用し、毎回必ず2%という還元率を提示することでさらなる利用を促すことは、長期的にApple Payの利用増へとつながる。アップル製品のヘビーユーザーの利用意欲を刺激しつつ、潜在需要の掘り起こしをしていくというのがApple Cardの当面の狙いではないだろうか。
(文・鈴木淳也)
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