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概要:社会人になって課される仕事の一つが飲み会の幹事。しかし、そこには未来に必要なスキルが詰まっていた。
Getty Images/Yuichiro Chino
4月から会社に新卒の新入社員を迎え、フレッシュな気分になっている方もいらっしゃることと思います。
私自身は2006年に新卒でリクルートという会社に入社したのですが、社会人1年目の思い出として、飲み会の幹事というのが実は大切な仕事なんだなということを学んだ経験があります。
特に印象に残っているのは、同じ部署の1年先輩に、後に「じげん」という会社を創業して上場する平尾丈さんという先輩がいらっしゃったのですが、彼が飲み会の幹事を担当していた私の同期の社員に、「なぜこの店を選んだのか」「この飲み会のゴールは何か」という質問を浴びせまくってたんです。
平尾さんはプレゼン資料のパワーポイントに使う画像を選ぶために、1時間以上かけてGoogleの画像検索をするような非常にこだわりの強い方で、当然、飲み会の設定についても1年上のメンターとして、新入社員にはこだわってお店を選ぶことを推奨していました。近くの席で同期がずっと「ホットペッパー」と睨めっこしている姿を見て、飲み会の設定というのは、こんなにも大切なのかという印象を持った記憶があります。
飲み会幹事に必要なスキルとは
飲み会の幹事はAIにはできない?
Getty Images/Eriko Koga
それから10年以上の時が過ぎ、Googleの画像検索にもディープラーニングのようなAIが使われる時代になりました。AIが雇用を奪うかも!?というニュースも飛び交う日々の中で、ようやく飲み会の幹事のスキルがとても大切だということがわかってきたのです。
飲み会の幹事をすると、「参加者の好きな食べ物はなんだろう」「こんなお店はどうだろう」「このお店おいしそうだな」「このお店のおすすめポイントはここで」「一緒にこの飲み会に参加しませんか」「私はこのメニュー食べてみたいな」「このお店、次回の飲み会でも使えそうだな」「もっといろんなお店に行ってみたいな」「こうやったらおいしい料理がつくれるのか」「自分の幹事術のスキルをみんなに共有しようかな」と、さまざまな問いが心の中を駆け巡ります。
実は、これらの問いは、オックスフォード大学のM. オズボーン准教授がAI時代に獲得すべき『未来のスキル』として提唱している内容と似た要素を持っています。
AIには難しいタスクとは
Getty Images/Ekkasit Keatsirikul / EyeEm
気づかずにやっているかもしれませんが、飲み会の幹事には実は次のようなスキルが含まれているのです。
いろんな人とコミュニケーションする中で、社会にいるステークホルダーのニーズを汲み取り、たくさんのクリエイティブなアイデアを出し合い、複数のオプションの中から本当に自分たちのやりたいことを見つけ出し、ゴールを設定して、それをさまざまな人に共有し、一緒にやろうよと動機づけ、協働する中で自分の個性を見つけ出し、その個性を育成するプランを自ら設計し、時には傷つきながらも目的に向かって努力していく中で成長し、そこで身につけたスキルを体系化して他者に教えながら、新しい社会を生み出していく。
これはまだまだAIには難しいタスクで、だからこそ、人間が身につけた方が良いスキルとして提唱されているわけです。
オズボーン氏が未来のスキルとして提唱しているのは以下のようなスキルです。
社会的洞察力(Social Perceptiveness)いろんな人とコミュニケーションする中で、社会にいるさまざまなステークホルダーのニーズを汲み取り、
発想の豊かさ(Fluency of Ideas) たくさんのクリエイティブなアイデアを出し合い、
心理学(Psychology)複数のオプションの中から本当に自分たちのやりたいことを見つけ出し、
指導力(Instructing)ゴールを設定して、それをさまざまな人に共有し、
協調性(Coordination)一緒にやろうよと動機づけ、
独創性(Originality) 協働する中で自分の個性を見つけ出し、
戦略的学習力(Learning Strategies)その個性を育成するプランを自ら設計し、
アクティブ・ラーニング(Active Learning)時には傷つきながらも目的に向かって努力していく中で成長し、
教育学(Education and Training)そこで身につけたスキルを体系化して他者に教えながら、
社会学・人類学(Sociology and Anthropology)新しい社会を生み出していく。
超高齢化社会の課題を解決
Getty Images/RUNSTUDIO
オズボーン氏は、私が代表を務める「エクサウィザーズ」という会社の顧問を務めてくれています。
この会社は「AIを用いた社会課題解決を通じて、幸せな社会を実現する」ことをミッションとして設立された会社です。特に、世界の中でも日本が最初に直面する超高齢社会の社会課題を解決するために、介護、医療、金融、人材、ロボット、スマートシティなど様々な分野にAIを活用しています。
社名の由来は「10の18乗のウィザード(達人)」という意味で、良くAIのプログラミングの達人を「ウィザード級プログラマー」と言ったりするのですが、例えば、介護の達人もウィザードだよねということで、さまざまな領域の達人が世界中から集まって社会課題の解決に取り組んでいます。
現在、約130人のウィザードが集い、オズボーン准教授のような大学の研究者から、AIプログラマー、介護の達人と会社全体が異業種交流会のようになっています。
社会課題解決を通じて身につくスキル
筆者(右)とオズボーン氏。
筆者提供
当然、さまざまなバックグラウンドを持った人が集ってAIを活用しているので、普段の業務内容が未来のスキルを獲得するための修行のような形になっています。
例えば介護分野においては、AIを用いることによって、優しいケアとはどういうケアかを解析し具体化することで、介護者へのコーチングに活かしたり、ディープラーニングによる解析結果から介護ケアの介入タイミングを予想して最適化したりするなど、AIの力で介護の現場をより良くする取り組みを進めています。
このようなAI活用の要件を決め、実際に開発し、社会に実装していくというプロセスは、先ほどの飲み会や未来のスキルのプロセスと似ていると思いませんか。
ここで改めて上の未来のスキルを読み返してみてください。
実は「AIを用いた社会課題解決を通じて、幸せな社会を実現する」というミッションを成功させようとすると、自然に未来のスキルが身につくようになっているんです。
ただ、いきなりAIで社会課題解決なんて難しいなと思った方は、ぜひ、飲み会の幹事からスタートしてみてはどうでしょうか。その飲み会の目的は?
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石山洸:株式会社エクサウィザード代表取締役社長。東京工業大学大学院知能システム科学専攻過程修了。2006年4月、リクルートホールディングス入社。同社のデジタル化を推進後、新規事業提案制度での提案を契機に新会社設立。2014年同社メディアテクノロジーラボ所長に。2015年リクルートのAI研究所であるRecruit Institute of Technologyを設立し、初代所長に。2017年、デジタルセンセーション取締役COOに就任。2017年10月の合併を機に、現職就任。静岡大学客員教授、東京大学未来ビジョン研究センター客員准教授。
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