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概要:「競うことって?」「趣味と仕事の違いって?」。働くことや仕事をめぐって山崎ナオコーラさんと矢部太郎さんが語り合う。
矢部太郎さん(左)と山崎ナオコーラさん。仕事って何?働くって何?という永遠のテーマを語り合った。
『趣味で腹いっぱい』を発売した山崎ナオコーラさん。銀行員の夫と専業主婦の妻が主人公。そもそもお金を稼ぐことについての価値観が違う2人が、妻の始めた趣味をきっかけに会話を積み重ねる。「やさしさに涙が溢れました」と帯文を寄せてくれた矢部太郎さんとの対談は「競うことって?」「趣味と仕事の違いって?」という働くことや仕事をめぐるふかーい話になった。
—— お二人は以前からお知り合いだそうですね。
山崎
『大家さんと僕』を出版直後に書店で見つけました。フラットな、新しい人間関係が描かれていて、「傑作だ」ってツイートしたら、矢部さんがそれをリツイートしてくれて。
矢部
あ、はい、そうです。
山崎
夫が書店員で、良書だと伝えたら本人も読んで絶賛し、書店で展開したんです。
矢部
ありがたいことに。サイン本なんかもたくさん置かせていただいて。テレビ番組で「行きつけの書店を紹介してくれ」って言われて、ロケもさせてもらいました。関西ローカルだったんで、申し訳なかったんですけど。
—— そんなご縁で『趣味で腹いっぱい』の帯を矢部さんが。
山崎ナオコーラさんの『趣味で腹いっぱい』と矢部太郎さんの『大家さんと僕』。『趣味で腹いっぱい』の帯は矢部さんが担当。
矢部
山崎さんの本はいつもそうなのですが、今回の本も僕が何となく思っていたことが文字になっていて、こう思ってたなー、こうなれたらいいなーと思いました。
—— こう、とは?
矢部
僕も仕事したくなくて。
山崎
そうなんですか? 仕事って、お笑いのことですか?
矢部
そうです。だいたい仕事の話、1回断っちゃうんです。
山崎
どんなものを断るんですか?
矢部
これは仕事だな、ってもの、だいたい断っちゃって。
山崎
何が嫌なんですか?
矢部
とにかく行くのが嫌だなって思うんです。終わった後は楽しくて、これでいいんだなって思うけど、でもやっぱり嫌なんです。
山崎
仕事だと、競争しなくちゃとかありますか?
矢部
それは、ありますね。
山崎
評価とか?
矢部
はい。
山崎
どんな人から評価されるんですか?
矢部
収録が終わった後のスタッフの人の顔色、温度ですね。
—— 『趣味で腹いっぱい』の鞠子は「主婦は素晴らしいよ」と言って専業主婦になり、どんどん趣味を広げていくけど、評価とは無縁の人です。
山崎
鞠子は「趣味とは自己満足」と考えています。自己満足って仕事では負の言葉で、社会的意義や評価がないものに金をもらうのか、って言われるけれど、時代が変わりました。ちょっと前までは稼いでるか稼いでないか、結婚しているかしてないかくらいの基準しかなくて、みんな同じような生き方ばかりだった。でも一人ひとりが違う多様性の時代に移り、人と比較できなくなるため、自己満足が大事になっていると思うんです。
矢部
満足することができたら、幸福ですよね。仕事とか給料とかを一番にしちゃうとそうはならないけど、それではない基準が僕にはあるので。
山崎
どんな基準ですか?
矢部
楽しいかどうかですね。楽しい、好きっていうものは趣味ってなっちゃうけど、でもお金もらうより楽しいがいいです。
—— 矢部さんが1977年生まれ、山崎さんは1978年。価値観が似ているのは、同世代ということと関係しているのでしょうか?
山崎
私たちの少し上の世代まで切磋琢磨して伸びていくっていう考え方があったけど、その反動で競争はもう止めようって教育が変わったのが、私たちの頃だった気がします。高校受験したのが「脱偏差値入試元年」って年で、私自身、競争というのはない、平等な社会なんだというのを信じていた気がするんです。
矢部
お笑いの世界は芸人の数も多いから、まずライブで競うんです。観てる方の投票で順位が決まって、上位が次の階層に上がれて、それがどんどん小さくなる。ピラミッド式ですね。
山崎
毎回、順位が決まるんですか?
矢部
月に2、3回のライブがあって、月の集計で入れ替えがあって。
山崎
それはもう完全な競争社会ですね。
矢部
厳しいですよね。オーディションとかで良さが見つかるタイプの人も時にはいます。でも、レギュラーで出ているライブが競争する仕組みになっているので、お客さんのための、というか、最大公約数的なものをやらなくてはならない。とかは、思ってますね。
山崎
私も社会に出て小説家になってみて、実際は競争ってあるんだなって初めて感じたんです。文芸誌に小説を載せるにしても、他の人を押しのけないと載らない。表紙とか目次とかの名前の大きさも、他の人と比べてすごく気にしてしまいます。理想としては、純粋に文学をやっていきたい。でも「競争のある社会」ということは受け入れていいのかも。その中でどうやって仕事していくかってことなんだろうなと思います。
—— ミレニアル世代は競争や、フェアじゃない勝ち逃げを嫌います。だからこの本は彼らの気分にぴったりだと思う一方で、SNS世代だから承認欲求が強く、自己満足で完結できない。そこで苦しんでいるように思います。
山崎
アイドルオタやアニメオタに対しても、昔はバッシングみたいなのがありました。でも今の若い人はそれぞれが趣味を持っていて、周りはその人の好きなものを尊重して余計なことを言わない。いいなって思います。アイドルの追っかけをするために働いているなど、仕事よりも大事なものがあるっていう価値観の人も増えているように感じます。
矢部
僕もそういう人が多くなってきてるなって思ってて、そういう空気がこの本に、きちんと書かれてるなあって感じました。それで帯に「私達」と書いたんです。「へたでもいい。誰かと競わなくてもいい。私達を肯定してくれる小説です」って。
—— 後輩芸人さんを見ていての実感ですか?
矢部
例えば先日、僕の連載(週刊新潮「大家さんと僕」)が終わって打ち上げをしたんですが、その場にいる人が僕の漫画の話を全然しないで、それぞれの趣味の話をずっとしているんです。
山崎
どんな趣味なんですか?
矢部
編集の方はすごく宝塚歌劇団が好きで、僕のマネージャーは鉄道好き、新潮社にもう1人鉄道好きの方がいらして。みんな30代後半くらいですね。宝塚好きの人が「今日、観に行ったんです」ってパンフレットを出したら、「20世記号に乗って」というミュージカルで、アメリカの古い鉄道の話らしいんですね。それに鉄道好きの2人が食いついて、全く噛み合ってないんですけど会話は盛り上がって。
山崎
すごくいい話ですね。違う趣味でも、ちゃんと盛り上がれるんですね。
—— もう一つ、ミレニアル世代に通じると思ったのが、生活を稼ぎに合わせていくという考え方ですね。40代後半くらいは今の生活を維持したいから、転職できないって考えです。それが20代だと収入が減るなら小さい家に住めばいいというダウンサイジングの考え方で、お金に縛られることを嫌います。
山崎
私はダウンサイジングというものを多分できてなくて。私はずっと金が大事だと思って生きてきた方で、お笑い芸人さんみたいに、家賃を上げていこうと。
矢部
あ、その考え方!
山崎
家賃で自分にプレッシャーをかけて、大物を目指すんだっていう話を聞いたことがあって、私も独身の頃、だんだん都心に近づけていって。
矢部
えーー。
山崎
今はダウンサイジングしなくてはいけない状況になってきたのですが、でも実行できていなくて苦労してるんだと思います。書店員の夫はすごくいい仕事をしてますが、書店員ってどうしても収入が少なめなんです。夫は自分の収入に合わせ、小さい生活を営み、楽しむというのが得意なんですが、私はそこに合わせられなくて。しかも大きな顔をしたくて、「いや、私が払うから」って。
矢部
かっこいい。
山崎
そう、カッコつけたがるから。競争しないとか言ってる割には、私は若い頃から「勝ちたい」っていうのが強い方で。文学賞の受賞がないと、どう自信を持っていいかわからないから、収入ありますとか税金いっぱい払ってますとか、「仕事やれてます」って自信を持とうとしてしまっていました。だから夫を見習いたい。自戒を込めて、競争から少し離れた方がいいという考えが生まれてきたのかなあと思います。
—— お笑い芸人である矢部さん、家賃を上げていくという考えはどうですか?
矢部
全然、そういうのないです、僕は。怖いなって、それの行き着く先はパンクしかないなって、思います。だってそんなことが続くって、どう考えてもおかしいですよね。全員がそうなるわけないし。
山崎
でもお笑いの世界は、すごく大きくて盛り上がっていますよね。世界自体が大きい。
矢部
はい、それは。
山崎
でも文学シーンは、才能あるいい作家が今いっぱいいますけど、決して大きい世界とは言えない状況にあって。もし競争すれば、小さいパイの取り合いみたいになっちゃうと思うんですよね。だから同世代の作家同士でやるべきは、世界自体を盛り上げようぜ、みんなで協力して書店の棚を作ってこうぜ、ってことだと思うんです。競争すれば、小さいパイの中で凝り固まった価値観が続いていくだけのことになる。それはやっちゃいけないなって思っていて。最近、同世代の作家の友達がどんどんできてきたんで、ライバルって思いたくないと考えるようになって。絶対「友達」って言おうと思ってるんです。
矢部
お笑いの世界は1人ですることの方が少ないので、ライブの世界は世界で競争なんですが、その先には協力し合うっていうのは自然とあるかもしれないですね。
—— ギラギラと上を狙う人も多い世界かと思いますが。
矢部
だいぶ早い段階で、それは向いてないなと思ったんです。だから自分にできることはなんだろうかと考えて。仕事でも僕、誰かがいない方で頑張るとかが楽かもしれないです。気象予報士の資格を取ったことあるんですけど、お笑いと関係ないじゃないですか、お笑いなのに。
山崎
他の人と切磋琢磨するより、自分の道はどこかなと考えて、一生懸命頑張ってらっしゃる。
矢部
そうだと思います。僕、こういう考えなのは、父の影響が大きいと思うんです。
山崎
やべみつのりさん。
矢部
そうです、はい。母はフルタイムで働いて、父は家で絵を描いて。だからこの本の夫婦と逆ですね。銀行員の小太郎さんが母で、趣味に生きる鞠子さんが父。父は鞠子さんのしたこと、全部してるんじゃないかって気がするんですよ。
山崎
そうですか!
矢部
家庭菜園もしてたし、陶芸も縄文式土器とか作ってました。
山崎
縄文式土器って、できるんですか?
矢部
できてました、河原で野焼きして。元々父は働いてないんですよ、そんなに。無理せず描くくらいの感じでしたから。だから僕、それが普通だというか、それでもいいんだって思ってるところが結構あるんですよ。それでお笑いの世界の上へ上へという考えに、そんなにしなきゃいけないのかって違和感を感じるんです。売れてる先輩でもこれだけ頑張ってるんだから、売れてない君達はもっと頑張らないと、みたいなことを言われて。
山崎
誰から言われるんですか。
矢部
ほとんどの人からそう言われて。
山崎
会う人会う人が。
矢部
会う人会う人がそういうことを言うんです。でも、そんなに売れなくてもいいしなーって思うんです。
山崎
今のお話を聞いて、ダメだなって思いました。
矢部
ダメだな?
山崎
私は子どもの頃からすごい地味なキャラクターで、班長はおろかクラスで手をあげるというのも一切しない子で、会社勤めもしましたが、そこでもほとんど発言しないくらいだったんです。でも作家になったら急に、それこそ会う人会う人から「また(文学賞の)候補になったね」とか「最近、候補になってないね」とか言われて、呑まれちゃったんだと思うんです。競争に毒されちゃった。だけど最近ようやくそうじゃないんだって気づき始めて、矢部さんのおっしゃっていたように、他の人がいない自分の道を見つけてひたすら邁進するのが本当の仕事じゃないかな、って。趣味と仕事と分ける必要ないかもしれないですけど、とにかく自分の道を見つけて歩いていくっていうのがいいと思いました。
—— 矢部さんは以前、趣味って聞かれるのがプレッシャーだと言っていましたが。
山崎
そうなんですか?
矢部
プレッシャーじゃないですか?
山崎
いい答えはないかもしれないですね。なんて答えるんですか?
矢部
読書と映画鑑賞。
山崎
それは確かに、広がらない感じですね。
矢部
広がりはしないです。僕、漫画を読むのが趣味だったんですけど、今それを言うと、なんか漫画を描いてることをアピールしてきたなと思われそうじゃないですか。だから言いにくくなっちゃって、外してます、答えから。
山崎
お忙しいでしょうから、お仕事以外の時間、なかったりするんじゃないですか?
矢部
そんなに忙しくないです。
山崎
空き時間とか何するんですか?
矢部
漫画読んだりとか。
山崎
あ、やっぱり漫画。
矢部
そうなんですよね。すごく何かをしたいんです。この本を読むと、趣味入門みたいなところもあって、何かしたくなります。
—— 鞠子さんは絵手紙を始めて、最後は小太郎さんも絵手紙仲間に加わります。
山崎
絵手紙って趣味っぽい趣味だな、と思って。
矢部
やると気持ちいいんですよね。
山崎
やったことあるんですか?
矢部
ロケで絵手紙美術館に行って描きました。楽しいです。あの世界に身を委ねることができて。僕の漫画も、絵手紙みたいにゆるーい感じですけど。
山崎
いや、矢部さんの絵は、これしかないって線だと思いますけど。唯一無二な線。
矢部
うれしいです。
山崎
漫画を描いているときは快感ありますか?
矢部
あります、あります、没入って感じです。
山崎
私も、自分の思ってるものが書けていると思える瞬間がたまにあります。私の好きな金子光晴という詩人が、「書いている時に元が取れているから、後のお金はいらない」って書いていて、至言だなって思って。書いた後の金とか評価とかを気にしがちなんだけど、それではダメで。後から何かが起きるとか、社会に影響を与えるとかじゃなくて、今が楽しいから書いているんだっていう気持ちでやろうと思うんですよね。
矢部
いい言葉ですね。僕、山梨の番組に出させていただいていて、週1回ロケをするんです。楽しそうな人の所に行くことが多くて。繁忙期以外はカヌレを作っている桃農家さんとか。普通のお家の玄関の横の窓をぶち抜いて、ちょっとしたお店を作っていて、なんかすごく楽しそうなんですよね。ここ、絶対お客さん来ないだろうって所なんですけど、マルシェとかイベントとかに出店して。そういうことができる時代なんだなあって思います。ああいう人たちは、きっと作ってる時間も楽しいんだろうな、と思いますね。
山崎
矢部さんは、これからの目標とか聞かれたら、どう答えますか?
矢部
え、なんて答えるだろう。健康とかですかね、長生きとか。
山崎
何歳くらいまで目指しますか?
矢部
結構、長生きしたい。100歳とか。
山崎
なんかいけそうな感じですね。100歳とかでも漫画描いてそうな感じです。
矢部
あー、描けそうです。100歳で、見たいです、いろいろ。
山崎
じゃあ、私も長生きを目標にします。老人エッセイを書きたい。
矢部
あ、そうおっしゃってましたね、以前にも。
山崎
高齢化社会なんで、需要があると思って。老人エッセイでブレイクする方っていらっしゃるんで、私の世代のブレイクを私でしたい。なんかうまく書けそうな気がするんで。
矢部
書けそうですね。
—— また100歳で対談とか。
山崎
いいですね。目標ができましたね。
矢部
できました。
(聞き手、構成・矢部万紀子、撮影・稲垣純也)
山崎ナオコーラ: 1978年生まれ。国学院大学文学部卒。2004年、会社員をしながら書いた『人のセックスを笑うな』で文藝賞を受賞。著書に『美しい距離』(島清恋愛文学賞)『母ではなくて、親になる』『文豪お墓まいり記』など。
矢部太郎: 1977年生まれ。お笑いコンビ・カラテカのボケ担当。2007年、気象予報士資格取得。2018年、初の漫画『大家さんと僕』で手塚治虫文化賞短編賞を受賞。週刊新潮に連載していた「大家さんと僕」第2期が2019年夏出版予定。
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