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概要:通信料金「4割値下げ」の不発をめぐり、総務省の後出しジャンケンが止まらない。現在、端末販売後100日まで認められているSIMロックを即時解除方針を打ち出した総務省。困惑するキャリア関係者の胸の内は複雑だ。
「SIMロック即時解除義務化」で注目される先頭に立つのは、もちろんiPhoneだ。
撮影:伊藤有
総務省の「後出しジャンケン」が止まらない。
昨年8月、菅官房長官の「携帯電話料金は4割値下げできる余地がある」発言が発端となった“携帯電話料金の値下げ”をめぐる騒動。
菅官房長官の発言を受けて、NTTドコモとKDDIは今年6月に新料金プランをスタート。しかし、4割値下げが実現していないとわかると、総務省は「解除料1000円」「2年縛りの見直し」をなかば強引に推し進めてきた。
10月1日に改正電気通信事業法が施行されるのに合わせ、ソフトバンクとKDDIが、通信契約と端末代金を分離するものの「48回払いでSIMロックのかかった販売方法」を発表すると、今度は「SIMロックはけしからん」と激怒。総務省は有識者会議の場でSIMロックの即時解除義務化の方針を打ち出した。
9月20日に開かれた通信料金をめぐる総務省の有識者会議。
撮影:石川温
20日の有識者会議をうけ、総務省の「SIMロック即時解除義務化方針」を報道する朝日新聞DIGITALの記事。
出典:朝日新聞DIGITAL
現在は、端末販売後、100日間はSIMロックをかけてよいというルールになっている。
ソフトバンクとKDDIは9月20日の新型iPhone発売に向けて、新しい販売方法を開始。48回払いだが、24回以上支払えば残債は免除され、新しい機種に交換できる仕組みだ。
端末代金と通信契約が分離され、他社ユーザーでも利用できるという触れ込みだが、100日間のSIMロックがかかり、48回払いで、新しい機種への交換が前提となることから「改正法の趣旨に反している。実質、ユーザーを囲い込んでいる」と有識者会議が指摘。「SIMロックの即時解除を義務化する」と息巻いているのだ。
戸惑い隠せぬキャリア側の反応は……
撮影:小林優多郎
各キャリアも総務省の考えに一定の理解を示すが、すぐにSIMロック解除の義務化に応じられるかは微妙だ。
キャリアとしてはSIMロックはユーザーを囲い込むだけでなく「不正利用の防止」という意味合いもあるからだ。
分割払いで製品をユーザーに手渡すと、契約後、不払いで持ち逃げされるリスクがある。KDDIは「過去の支払いに問題がない人でも未払いのリスクは存在する」と言い、ソフトバンクも「SIMロックのある端末ですら、A社の人気機種では数年前にかなりの額の盗難被害が出た。許容できるリスクではない」とした。
有識者会議に出席した高市早苗総務相。SIMロックは「速やかにルールの見直しを進める」べきだという方針で即時解除の義務化に向け制度を見直す方針を示している。
撮影:石川温
A社とはアップルのことだろうが、iPhoneは過去にキャリアショップが強盗に襲われるなど人気の機種であることは間違いない。
グローバルで流通していることもあり、「日本で盗み、海外に転売されることが多い」とされる。SIMフリーの状態で販売すれば、それこそキャリアショップが強盗の餌食になりかねない。
「SIMロック不要」と息巻く楽天
楽天のキャリア参入の最新状況と最大5000人程度の「無料サポータープログラム」を発表する三木谷浩史会長兼社長。
撮影:伊藤有
10月から第4のキャリアとして無料プログラムをスタートする楽天は、SIMロックを根絶しようと躍起だ。3キャリアでSIMロックが解除されれば、楽天へユーザーが流入する可能性が出てくるからだ。
楽天は有識者会議で「SIMロックなど不要だ。我々がその根拠を証明してみせる」と宣言している。
「4年以上にわたり、SIMロックフリーで販売してきたが、不払い対策についても与信や債権管理で対応できる。SIMロックでの対策は不要だ」(楽天担当者)
と言い切ったのだ。
ただ、楽天の主張は説得力に欠ける面もある。楽天は新品のiPhoneを扱ったことがないからだ。
従来の楽天のラインナップには、そもそも不払いや盗難をしてまで持ち逃げし、転売したいと思える市場価値の高いスマホはあまりない。楽天が新品のiPhoneを扱うようになれば、主張も変わるのではないか。
今回のSIMロック解除騒動を受けて、あるキャリア関係者は「今後、省令が改正されれば、SIMロック解除を受け入れざるを得ないだろう。菅官房長官の思い通りにしようと、キャリアが政府に振り回されている」とぼやく。
楽天の本格参入が実質遅延するなかで、肝心の4割値下げが不発になり、総務省の対応が通信業界を混乱させている印象は否めない。
撮影:今村拓馬
また、値下げを受け入れざるを得ない雰囲気になるなか、キャリアとして、国民のライフラインを守る責務との葛藤もあるという。
「千葉の台風被害で、数千人という復旧要員を投入し、車載型基地局、可搬型基地局、電源車、発電機も数百台、配置した。インフラ企業としての責任だが、そんななか、値下げ議論をするなんて、政府は何を考えているのか」(キャリア関係者)
と憤る。
キャリアが一定の利益を確保していなければ、災害時に早急な復旧もままならない。基地局を直すだけでなく、キャリアショップでスマホの充電ステーションを設置するといった支援も難しくなるだろう。
千葉の台風被害も、スマホからSNSを通じて助けを求める声があがり、ようやくテレビなどのメディアが報道し、被害状況が把握できたとされる。
政府は単に料金値下げとあおるだけでなく、「災害時にいかに通信というライフラインを守るか」という視点も忘れずに、有識者会議で慎重な議論をしていくべきだ。
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