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概要:日銀は、10月の金融政策決定会合で金融政策の現状維持を決定した。また、同時に発表した展望リポートでは、2022年度の消費者物価上昇率(除く生鮮食品、コアCPI)を2.9%へ引き上げたが、23年度については1.6%と小幅な上方修正にとどめた。
[東京 31日] - 日銀は、10月の金融政策決定会合で金融政策の現状維持を決定した。また、同時に発表した展望リポートでは、2022年度の消費者物価上昇率(除く生鮮食品、コアCPI)を2.9%へ引き上げたが、23年度については1.6%と小幅な上方修正にとどめた。
日銀は、10月の金融政策決定会合で金融政策の現状維持を決定した。
輸入物価を中心とするインフレ圧力は、来年度に減衰するとの見方を維持したわけであるが、展望リポートは、コスト増に対する企業の価格転嫁が想定以上に実現している点や、人手不足と好調な企業収益を背景に来年度以降に賃金上昇が進む可能性も指摘している。実際、物価見通しに関するリスクバランスチャートも、政策委員の多くが上記の1.6%という見通しに上方リスクが高いことを示している。
<現実味帯びる物価目標の達成>
つまり、インフレ率が来年にかけて安定的に2%を維持するだけでなく、物価と賃金の好循環を伴うという意味で、日銀が目指してきた政策目標が実現する可能性が、今や相応の現実味を帯びてきたことになる。
これに対し、日銀は金融政策の「正常化」をどのように進めるかという考え方を、時期尚早という理由で明らかにしていない。確かに、早過ぎる公表は金融市場の過度な反応を招くだけでなく、インフレ期待の上昇を抑制するなど、物価目標の安定的な達成を阻害する恐れも大きかった。
しかし、物価目標の達成のがい然性が高まってきた下でも考え方を示さないことで、金融市場に様々な思惑が生じるほか、政策運営の予見可能性を低下させ、経済活動にマイナスの影響をもたらすことも考えられる。
さらに、日銀の金融緩和は、長期にわたって維持されてきた中で多くの手段が多様な条件で運営される複雑な構造となっているだけに、「正常化」の過程でこれらが相対的にどのような優先順位で停止されていくのか分かりにくい。
日本の経済や物価の特徴を参照しつつ「正常化」の考え方を示すことは、金融市場の思惑を抑止し、家計や企業による円滑な行動変容を促すうえで重要な意味を持ちうる。
<「正常化」のステップ>
日銀が用いている政策手段としては、まず、コロナ感染が経済に与える影響を抑制するための資金供給オペ(コロナオペ)があり、併せて長短の政策金利を現状ないしそれ以下に下げるというフォワードガイダンスが付与されている。
これらは、コロナ感染の影響に対する懸念が後退すればコロナオペが終了し、フォワードガイダンスも解除されるという意味で、「正常化」の第1段階として、運営方針は客観的に明確である。
日銀は既にコロナオペを段階的に縮小してきたし、政府のコロナ対策が経済活動との両立にシフトする下で、より幅広い資金需要に対応するために既存の共通担保オペを強化する考えを明示している。
これに対し、イールドカーブ・コントロール(YCC)とそれを含む「量的・質的金融緩和」を具体的にどのように「正常化」するかは、現時点で明らかになっていない。
この点に関するフォワードガイダンスは「2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、長短金利操作付き量的・質的金融緩和を継続する」というものである。
従って、文字通りに読めば、1)物価目標の安定的な実現が見通せるようになった時点(実績ではなく、実現見通しが十分高まった段階)で、2)「量的・質的金融緩和」を終了する、と解釈できる。
しかし、1)はともかく、2)については金融政策の運営方針をいきなり白紙にすることは現実的とは思われない。これまでも「量的・質的金融緩和」を維持しながら政策金利を調整してきた実績も踏まえると、少なくとも当初は「量的・質的金融緩和」の下で政策金利を上方に引き上げる段階が、「正常化」の第2段階として設定されると考えられる。
<金融市場への対応>
第2段階の難しい課題は、金融市場で思惑が先行する事態を防ぐことにある。
特に長期金利の誘導目標を段階的に引き上げれば、金融市場ではさらなる引き上げを先読みして、長期国債の売り圧力が強まることが想定される。日銀がこれに対抗すべく大量の国債を買い入れるようでは、政策意図に反して「正常化」が進まないことにもなりかねない。
YCCという強力な手段を行使してきた以上、金融市場の思惑を完全に抑制することは難しいし、この点は今年の春以降に断続的に生じている0.25%を巡る攻防戦が示すとおりである。
それでも、いくつかの対応策は存在する。第1に、日銀による金融政策の「正常化」は米欧の中央銀行による金融引き締めとは程度や内容が異なる点を強調し、金融市場の理解を得ることだ。
日本のインフレ率は「リスクシナリオ」が実現しても米欧より顕著に低いだけに、米欧のような強力な金融引き締めは不要である。
しかも、潜在性成長率の相対的な低さを考えれば、米欧に対して中立的な政策金利も相対的に低いとみられるので、政策金利の最高到達点も米欧に比べて明確に低いことになる。
これらの理解を共有できれば、金融市場が米欧型の金融引き締めの再現という単純なシナリオを想定するリスクを抑制しうる。
第2に、YCCを停止した後の長期国債の利回りについて、日銀と金融市場が均衡値のイメージを共有することだ。
これは難易度の高い対応策であるが、日銀は既に2016年9月の「総括的検証」や2021年3月の「金融政策の点検」の際に、長期金利への定量的な影響に関する推計結果を公表している。
これらの中では、日銀による国債保有のシェアが政策効果を発揮する変数として位置づけられているだけに、日銀が保有国債の残高を維持するケースや、自然体で償還に沿って残高を減らすケースなどのパターンで国債利回りの推計を示せば、金融市場との間で長期国債利回りのパスのイメージを共有することに資する。
第3に、万一の場合の対策として、国債買い入れを限定的に発動する余地を残しておくことだ。
日銀と金融市場が長期国債利回りの均衡値のイメージを共有できても、実際の利回りはその周囲で変動するであろうし、財政や海外の要因によってボラティリティが高まる局面もありうる。こうした場合に、時限的かつ焦点を絞った形で国債買い入れを発動できるようにしておくことは、現在の上場投資信託(ETF)買い入れと同様な考え方であり有用と思われる。
なお、政策金利の引き上げの初期段階では国債買い入れの可能性を維持することは、米欧の中央銀行による「正常化」とは異なる順序での対応となることにも注意する必要がある。
これらの検討を踏まえると、「正常化」の第2段階として、物価目標の安定的な達成が見通せるようになった時点で、様々な対応策を導入しつつ、「量的・質的金融緩和」の枠組みの下で政策金利の段階的な調整に着手し、それを一定の段階まで進めることが想定される。
<マネタリーベースの取り扱い>
日銀による現在の金融緩和には、マネタリーベースについても「消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する」というフォワードガイダンスが設定されている。
この条件は、物価目標の安定的な達成を実績として求めるだけに、時間的にみて最後にクリアすることが想定される。
このフォワードガイダンスは「量的・質的金融緩和」の一部と位置付けられてきただけに、遅くとも「量的・質的金融緩和」と一体で終了することになる。
一方、「正常化」の第2段階を「量的・質的金融緩和」の下での政策金利の調整であるとすれば、政策金利が一定の段階、例えば中立的な水準に達したところで「量的・質的金融緩和」を終了することになるわけであり、マネタリーベースに関するフォワードガイダンスはその時間を確保する上で有用となりうる。
一方、政策金利の調整を進める「正常化」の第2段階でもマネタリーベースを増やし続けることは、金融政策として整合的でないとの懸念もあろう。
しかし、このフォワードガイダンスにはマネタリーベースの増加規模に関する規定は存在せず、特に「総括的検証」を機に政策変数としての重点が金利にシフトして以降は、マネタリーベースの増加額は柔軟に運営されている。それだけに、この点が「正常化」の大きな支障になるとは考えにくい。
<時は熟した>
物価目標の安定的な達成の可能性が高まったことは「量的・質的金融緩和」の目的が実現することでもある。そうした重要な成果を金融市場の混乱などによって毀損しないようにするためにも、今や金融政策の「正常化」のイメージを共有することの重要性がかつてなく高まっている。
編集:田巻一彦
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融イノベーション研究部シニア研究員。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。金融イノベーション研究部・主席研究員を務め、2021年8月から現職。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。
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