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概要:ドル円相場は8月に入って140円台での推移が続いています。年末年始のメディアでは「2023年は円高の年になる」との専門家予測を数多く見かけましたが、なぜ円安は終わらないのでしょう。理解のカギは「実務上のお金の流れ」です。
ドル円相場は5月以降、1ドル140円前後を行き来した後、8月に入って140円台での推移が続いている。
REUTERS/Issei Kato
年初来、外貨の流出入を示す経常収支や貿易収支などの統計について、数字の改善が報じられている。
例えば、直近6月の貿易収支は23カ月ぶりの黒字転換が好意的に報じられた。
経常収支についても、2023年上半期(1〜6月)の黒字額が前年同期比11.1%増の8兆132億円となったことが大々的に報じられた。
こうした数字を見る限り、資源価格の高騰により輸入額が膨れ上がるなど外貨流出に苦しめられた2022年の状況が、年明け以降に一変したように感じられる。
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興味深いのは、これらの統計の改善と円相場の動向が噛み合わないことだ。
2022年の経常収支は(前年比47%減とは言え)11兆4432億円の黒字だった一方、ドル円相場は最大30%以上の下落(円安)を記録している。
経常黒字を額面通りに受け止めれば、相応の外貨流入があって、その外貨を円転(日本円に転換)させる際に相応の円買い圧力が生じたはずで、そうだとすれば、歴史的水準と騒がれた円安は起きなかったのではないか。
大きな経常黒字を記録しても円安が続いてしまうのはなぜだろうか。
その実態を理解するためには、統計上の数字より実務上のお金の流れ、いわゆる「キャッシュフロー」に注目する必要がある。
実は、経常黒字は額面通りの円買いを意味していない可能性があるのだ。
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「日本に戻ってこない」黒字
経常収支をキャッシュフローの視点で見直し、その実態を把握するため、まずは経常収支の内訳を精査してみたい。
先述したように、2022年の経常収支は11兆4432億円の黒字だった。内訳としては、「貿易・サービス収支」で21兆3881億円の大幅赤字を計上したものの、それを「第一次所得収支」の35兆3087億円という大幅黒字で帳消しにした(残る内訳の「第二次所得収支」も2兆4773億円の赤字で、それも帳消しに)。
したがって、端的に言えば、日本の経常黒字とは第一次所得収支の黒字と考えて差し支えない。第一次所得収支とは、大まかに言えば「過去の投資のあがり」であり、外国企業の株式配当金や債券の利子、日本企業の海外法人からの利子・配当金などが含まれる。
さて、ここからが重要だ。
第一次所得収支は主に、証券投資から得られる収益と直接投資(現地子会社と親会社の間の受け取りと支払い)から得られる収益で構成されている。
キャッシュフローベースで経常収支を見直す場合、証券投資から得られる収益に含まれる債券利子と配当金、さらに直接投資から得られる収益に含まれる「再投資収益」は取り除いて考えた方が良いと筆者は考えている。
前者の債券利子と配当金は通常、複利効果を狙って再投資されることが多い。外貨建ての投資信託に投資している読者にとっては、実感が湧くところだろう。
また、後者の再投資収益についても、実際には親会社が回収して円転することなく、外貨のまま再投資に向けられるので、円買いには全く寄与しない。
上記のようにキャッシュフローベースで2023年上半期の経常収支を見直すと、第一次所得収支の黒字は6兆1431億円となり、統計で示された17兆5286億円の3分の1程度にしかならない。
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「実務上」は経常赤字では?
前節で計算したキャッシュフローベースの第一次所得収支に、貿易・サービス収支、第二次所得収支、経常移転収支(政府の食料・医療援助や災害支援における無償資金協力など対価を伴わない取引)を加えることで、キャッシュフローベースの経常収支を推計できる。
結論から言うと、2023年上半期のキャッシュフローべースの経常収支は、3.6兆円程度の赤字だった疑いがある。前年同期の約3.2兆円を上回る赤字幅だ【図表1】。
【図表1】キャッシュフローベースの経常収支(推計)の推移。2023年については上半期(1〜6月)分をグラフ化した。
出所:日本銀行資料より筆者作成
冒頭で触れたように、2023年は外貨流出に悩まされた前年よりマシな状況、というのが共通認識になっているようだが、上記のようにキャッシュフローベースの実態を見てみると、必ずしもそうは言えないように思える。
この上半期を振り返れば、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げペースを減速もしくは利上げサイクルを終了するとの観測が強まり、日銀も実質的にイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)を解消して長期金利の上限を引き上げるなど、円高・ドル安に振れるきっかけはあった。実際、年末年始時点ではそれを期待する識者が多かった。
それでも、円安相場は終息しなかった。
キャッシュフローベースの経常収支が前年を上回る赤字で推移している状況、つまり「円を売りたい人の方が多い」状況が続いている現状は、やはり円安相場の主な要因の一つとして捨て置けないように筆者は思う。
ちなみに、先の【図表1】を見ると分かるように、2022年のキャッシュフローベースの経常収支は10兆円程度の赤字だが、それに匹敵するほど赤字幅を記録したのが2013年と2014年だった。いずれも円ドル相場が10%以上下落した年だ。
これはただの偶然なのだろうか?「円を売りたい人の方が多い」状況がこの頃から生まれていたのではないだろうか?
日本が肉体労働で得た外貨を、海外の頭脳労働に奪われる構図
キャッシュフローベースの経常赤字に加え、「サービス収支」赤字の拡大傾向も、円安相場が終息しない要因として無視できない。
過去の寄稿でも指摘したことだが、近年のサービス収支赤字の拡大は、デジタル・コンサルティング・研究開発といった分野からの外貨流出に起因するところが大きい。
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2023年上半期のサービス収支は2兆1220億円の赤字で、前年同期の赤字2兆5647億円からやや改善を見せている。
内訳を見ると、「輸送」収支が4185億円の赤字、「旅行」収支が1兆6161億円の黒字、「その他サービス」収支が3兆3196億円の赤字だった。
前年同期の旅行収支黒字は1281億円で、黒字幅が10倍以上に拡大しており、それがサービス収支全体の改善に寄与した。
ただし、その他サービス収支は前年同期の赤字2兆1776億円に比べて1兆円以上も赤字幅が拡大しており、訪日外国人観光客(インバウンド)の回復という追い風が吹く旅行収支で多くの外貨を稼いだ分を吐き出してしまう形になっている。
見方を変えれば、観光という「労働集約」的な産業で稼いだ外貨を、ソフト面での競争力が重視される「資本集約」的な産業での支払いに回しているとも言える。
極端な言い方になってしまうが、あえて言わせてもらえば、肉体労働で稼いだ外貨を頭脳労働で奪われている構図だ【図表2】。
【図表2】サービス収支の変遷。2022年上半期と2023年上半期を比較した。
出所:Macrobond資料より筆者作成
その他サービス収支の赤字拡大要因は多岐にわたるものの、先述のようにデジタル・コンサルティング、研究開発分野の動向が大きく影響している。
2023年上半期について前年同期と比較すると、専門・経営コンサルティングサービスの赤字が4276億円から1兆1042億円へ2.5倍以上増えた。通信・コンピューター・情報サービスの赤字も7582億円から8640億円へと拡大している。研究開発サービスの赤字は9200億円程度の横ばいで推移した。
資源価格や為替、外需の動向全般に大きく左右される貿易収支や第一次所得収支と異なり、その他サービス収支赤字は近年、悪い意味で堅調に拡大している。そして、支出の性格上、急激に減少することはないだろう。
今後の円相場を展望する上で、これら「新時代の赤字」から目を離すべきではないと筆者は考える。
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「円高は遅れてやって来る」発想の怠慢
2023年、ここまで見る限り、市場参加者のほとんどが予測した円高相場はやって来ていない。
こうした状況に直面して、「アメリカの景気後退入りが遅れているからFRBの利下げも後ろ倒しになっているのであって、利下げにさえ至れば、円高も遅れてやってくる」と予測するのは、いくら何でも保守的、旧来的にすぎるのではないか。
もちろん、FRBのハト派転換はある程度の円高をもたらすだろう。変動為替相場制なのだから、振れ幅は当然伴う。恒久的に円安が続くということはない。
しかし、なぜ円安は大方の予想に反して簡単に終わらないのか、本当に突き詰めて考える必要があるのだとすれば、ここまで指摘してきたような需給構造の実情や変化を認めることが第一歩になるはずだ。
2022年の春頃から、「構造的な円安を議論するのは時期尚早」といった識者の意見を繰り返し耳にしてきたが、1年半以上経っても修正されない140円台の円安・ドル高を前に、構造的な変化の可能性を疑いすらしないのは、分析者の態度として不埒(ふらち)であると筆者は思う。
例えば、ドル円相場について想定すべきレンジが「100~120円」というかつての主戦場から、「120~140円」もしくは「125~145円」へとシフトアップした可能性などを考えても良いのではないか。
少なくとも、円高相場に苛(さいな)まされてきた過去の時代はいったん忘れて、円安による購買力の低下とそれに伴う望まぬインフレの発生を警戒する目線を持ちたい。
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