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概要:年明けから新しい少額投資非課税制度(NISA)が始まりますが、それを機に外貨建て商品への投資が一気に加速し、円安が進むといったメディア記事も。しかし、みずほ銀行の唐鎌大輔氏は「雪崩を打つ」急激な資金移動は想定できないと語ります。
日本の家計金融資産の動向を示す四半期統計が発表された。
日銀が2023年第3四半期(7~9月)の資金循環統計を公表した。
9月末時点の家計金融資産は2121兆円と過去最高を更新したものの、内訳の半分以上(52.5%)が「現預金(外貨預金除く)」という点では、20年以上前と変わらなかった【図表1】。
もちろん全く何も変化がなかったわけではなく、例えば、今回「株式・出資金」の占める割合が12.9%と過去最高タイを記録したことは注目される
タイで並んだのは2006年3月末の数字で、当時は世界が(のちにサブプライム危機からリーマンショックに至る)金融バブルに沸いていた時期だ。同時期の日本では、円安を背景に貿易収支も経常収支も積み上げが進んでいた。
今回、株式・出資金の割合が増えたのは、株価上昇に伴う価格効果の影響と考えていいだろう。日経平均株価は3月末に2万8000円前後で推移していたが、5月半ばに3万円台を突破して以来、3万3000円前後での推移が続く。
投資信託(外貨部分を除く)の割合が押し上げられた(4.8%)のも同じく、株価上昇に伴う価格効果を反映した結果だろう。
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「家計の円売り」はすぐ起きる?
家計金融資産の内訳について、円建ての資産と外貨建ての資産の変化にも注目しておきたい。
政府は12月13日に「資産運用立国」の実現に向けた具体的な政策プランを公表。家計金融資産の半分以上を占める現預金を投資に向かわせるとしており、そうなれば円建ての現預金以外にも注目が集まるかもしれない。
資金循環統計における家計金融資産のボリュームゾーンは高齢者層であり、四半期ごとの数字に際立った変化が確認されるほどの急激な展開はさすがに考えにくい。
とは言え、前節のを見ると分かるように、円建て以外の外貨性資産は2000年3月末の0.9%から、2023年9月末には3.5%へと構成比率が4倍増。金額で見ると、同時期に13.2兆円から74.3兆円とおよそ6倍増しており、決して小さくない変化だ。
出所:日本銀行「資金循環統計」より筆者試算・作成。
家計金融資産に占める割合の増加幅2.6ポイントのうち、1.6ポイントが投資信託の増加によるもの。
資産運用立国を実現する政府の具体的施策は、基本的には投資信託(投信)へのアクセスを円滑にするものが中心になっており、資金循環統計の数字の動きを見る限り、その恩恵を受けるのは円建てより外貨建ての投信になっていくのかもしれない。
その流れはすでに(外貨流出という形で)昨今の円安地合いに寄与しており、現時点では大騒ぎするほどの規模感には至っていないものの、これから徐々にそうなっていく可能性は否定できない。
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ただし、2024年1月から新しい少額投資非課税制度(NISA)が始まると外貨投資が一気に加速し、円安が進むといった過激なメディア記事も見かけるが、筆者としてはそのように「雪崩(なだれ)を打つ」のではなく、「根雪(ねゆき)」のように少しずつ外貨建ての資産が増えていくイメージを抱いている。
前節で触れたように、家計金融資産の多くを握るのは高齢者世帯であり、その資金が一夜にして外貨投資に殺到するような展開はあまり想定できない(もしそうした展開があり得るとすれば、欧州債務危機のような事態に直面した時だろうか)。
しかし、対外純資産残高における直接投資の割合の増加がまさにそうだったように、外貨性資産についても、短期的には大きな変化がないように見えながら、気づいてみれば10%、15%、20%と割合が高まっていた、という展開は十分考えられる。
(※対外純資産残高に占める直接投資の割合が増加し、証券投資を逆転するに至ったここ15年ほどの変化、さらにそれと円安の関係については、過去の寄稿(2023年5月30日付)を参照いただきたい)
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円高基調だった過去四半世紀ですら、外貨性資産の割合は4倍増したのだから、今後日本の貿易赤字が長期化して円高には戻りにくいとの認識が定着してくれば、外貨建て金融商品への投資はさらに伸びても不思議ではない。
NISA経由で発生する円売り・外貨買いは長期の資産形成が前提だけに、資本フローとして長期的に逆流しない(円への交換需要が長期で発生しない)取引になるだろうから、際立って円安が進む要因にはならなくても、円高が進まない要因として定着していく可能性がある。
ある日突然に変化がやってくるわけではないにせよ、だから安心という話にはならない。
「家計の円売り」は依然として円安の最大リスクであり、その文脈で、家計金融資産の動向には長い目で注意を払いたいと筆者は考えている。
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