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概要:日銀の植田和男総裁は、先般の主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で、インフレ率が安定的で持続的に目標を達成すると確信しうる状況には至っていないとして、現在の金融緩和を継続する必要性を確認した。
[東京 24日] - 日銀の植田和男総裁は、先般の主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で、インフレ率が安定的で持続的に目標を達成すると確信しうる状況には至っていないとして、現在の金融緩和を継続する必要性を確認した。
日銀の植田和男総裁は、先般の主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で、インフレ率が安定的で持続的に目標を達成すると確信しうる状況には至っていないとして、現在の金融緩和を継続する必要性を確認した。
もちろん、今月末の金融政策決定会合で公表する新たな展望リポートの中で、物価見通しをさらに引き上げれば、こうした議論の前提が変わる余地は残っている。また、足元に至るまで実際の消費者物価指数(CPI)の上昇率も3%台前半で推移しており、2023年度については、日銀が物価見通しを上方修正する蓋然性は一定の程度存在する。
それでも、日銀が来年度の慎重な物価見通しを維持すれば、インフレ目標の安定的、持続的な達成を確信できないという判断を維持し、金融緩和の継続を決定することが可能である。足元で円安圧力が再び高まったのも、金融市場のこうした見方を反映した面がある。
<慎重論の背景>
物価上昇圧力の持続性について、日銀が慎重な見方を維持している主な理由は、海外情勢にあると推察される。
来年度にかけて、米欧では既往の金融引き締めの影響が経済活動により明確に波及することで、低位な成長を続ける可能性がある。
これに対し内需には、家計に関して経済活動の再開やインバウンド来訪者の急回復、企業分野ではデジタル化や気候変動対応などへの設備投資の活性化といった好材料も多い。物価についても、国際商品市況に反発の兆しがあるほか、円安や賃金上昇の継続などの上方要因が存在する。
従って、少なくとも景気循環的な視点では、外需の下方リスクと内需の上方リスクのバランスを見極めることが、金融緩和の継続にとって引き続き重要な判断材料となることが予想される。
<「高圧経済」の合理性>
しかし、日銀が金融緩和の解除に慎重である背景には、今回の物価上昇を生かして長期にわたる低インフレの構造に終止符を打ちたいという意向も推察される。実際、植田総裁は、国会の場をはじめとして、量的・質的金融緩和の総仕上げとしての低インフレからの脱却が自らのミッションであるとの考え方を強調してきた。
こうしたミッションを確実に遂行するには、まず、高インフレの状態をできるだけ継続することで、インフレ期待をインフレ目標と整合的な水準に高める必要がある。
コロナ前の米国でも米連邦準備理事会(FRB)のイエレン元議長が提唱した「高圧経済」と同じ考え方であり、日本のようにインフレ期待が適合的に形成される下では合理性を持つ戦略である。
その上で、低インフレ構造から完全に脱却できたと言えるためには、将来に向けて実際のインフレ率が多少低下しても、インフレ期待が物価目標の近くで安定性を維持できる必要もある。しかし、これはより難しい課題である。
なぜなら、日本経済の成長力は人口動態や全要素生産性(TFP)の動きをみる限り、近い将来に顕著に改善することは見通し難い。
結果として期待成長率が停滞する下では、総需要も、循環的な動きは別として高成長を維持することは期待しがたい。その下で、海外発の金融経済面での下方ショックに見舞われれば、景気や物価に大きな影響が生ずるリスクがある。
こうした構造が金融政策の運営に与える意味合いは、低位な自然利子率の下で政策金利も平均的には低位となるほか、景気や物価の下落を抑制する中で政策金利が下限に達する蓋然性も高いということだ。そこから先は、再び「非伝統的政策」の活用が必要となる。
<「レビュー」との整合性>
日銀が、将来にかけて「非伝統的政策」に依存せざるを得ない点は、過去25年間の「非伝統的政策」の効果や副作用を検証するために日銀が実施する「レビュー」の議論との間で、いくつかの問題を提起しうる。
第一の問題は、マイナス金利政策の有効性や蓋然性との関係である。
日銀のマイナス金利政策については、金融仲介を却って阻害するとの批判が根強く指摘されてきた。しかし、金融緩和の解除が視野に入るにつれて、マイナス金利政策がイールドカーブの安定に寄与する効果に注目する見方も増えている。
実際、金融市場では、日銀が金融緩和の解除を進める上では、マイナス金利政策を維持しつつイールドカーブ・コントロール(YCC)を解除することで、国債利回りの不安定化を防ぐべきとの考え方が目立つ。
ただし、マイナス金利政策がイールドカーブの安定に本当に寄与しているのであれば、金融市場が、日銀は今回の金融緩和の解除でマイナス金利政策を脱却しても、将来にかけてしばしばこうした政策の活用を余儀なくされるとの見方を暗黙のうちに共有していることも意味する。
なぜなら、イールドカーブは将来にわたる政策金利の予想によって影響されるはずであり、足元の政策金利だけによる影響は限定的だからである。
だとすれば、金融市場も、日本経済が低成長の構造から脱却することは難しいと予想していることを意味し、こうした下でインフレ期待を物価目標の近くに安定させることは果たして可能なのかという疑問が浮かび上がる。
その上で第二の問題は「非伝統的政策」の景気や物価に対する有効性との関係である。
日銀が実施する「レビュー」はまさにこの点を検証することが目的である。結論としては、「非伝統的政策」の有効性には多くの限界があった点に注目するか、副作用もあったが所期の効果を挙げた点に注目するかに大きく分かれる。
ちなみ植田総裁は、これまでの発言を踏まえると「非伝統的政策」は、政策金利の調整のような通常の政策に比べて、効果が限られるないし不確実であるとの考えにあるとみられる。
そこで「非伝統的政策」の限界を強く打ち出すと、今回は金融緩和を解除できても、将来に政策金利の下限に再び直面した後は、金融政策の効果が限定されることを示唆する。
先に見た低成長構造の下で、こうした局面に直面する蓋然性が高いことを考えれば、結局のところ、インフレ期待の安定という最終目標の達成は難しいという見方につながりかねない。
しかし、逆に「非伝統的政策」の効果を強調すれば、足元で金融緩和を粘り強く続けていることとの整合性に疑問が生じうる。
なぜなら、企業や家計の実質購買力の喪失といった副作用にもかかわらず、高インフレを意図的に放置する「高圧経済」の考え方は、インフレ期待の引き上げ、ないし物価目標近くへの安定が難しい課題であるとの理解に基づいているためだ。
政策金利が下限に達しても、日銀は「非伝統的政策」を駆使して景気や物価を容易に改善しうるのであれば、インフレ期待の安定という最終目標も景気循環を通じて容易に達成しうることになり、足元で「高圧経済」にこだわる合理性は低下する。
日銀は、「レビュー」について長期的な視点に沿って実施し、足元の政策運営に直接的な影響を及ぼすものではないと説明している。しかし、現在の金融緩和が低インフレ構造からの脱却という長年の目標の達成と深く関係している以上、金融緩和の維持と「レビュー」の結果との整合性は大きな意味を持ちうる。
編集:田巻一彦
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融イノベーション研究部シニア研究員。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。金融イノベーション研究部・主席研究員を務め、2021年8月から現職。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。
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