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概要:世界的な金融引き締めの中で、依然として日銀の金融緩和姿勢が際立っている。当面の間、緩和の必要性を強調するスタンスにも今のところブレはみられていない。
[25日 ロイター] - 世界的な金融引き締めの中で、依然として日銀の金融緩和姿勢が際立っている。当面の間、緩和の必要性を強調するスタンスにも今のところブレはみられていない。
世界的な金融引き締めの中で、依然として日銀の金融緩和姿勢が際立っている。内田稔氏のコラム。写真はスイスフラン紙幣。2016年4月、ベルンで撮影(2023年 ロイター/Ruben Sprich)
仮に、長短金利操作付き量的・質的金融緩和(イールドカーブコントロール、YCC)への修正があったとしても、それは緩和長期化に備えたファインチューニングに過ぎない。金融政策の正常化にほど遠い状況は変わらないだろう。
こうした日銀のスタンスは、外国為替市場で根強い円安期待をもたらしてきた。例えば、ロシアの軍事侵攻が始まった昨年2月24日から昨日(今年7月24日)までの主要9通貨(円、豪ドル、ニュージーランドドル、スイスフラン、スウェーデンクローナ、ノルウェークローネ、英ポンド、ユーロ、加ドル)の対ドル変化率をみると、円は約18%も下落しており、最下位を維持している。
一方、「ある通貨」を除いたすべての通貨が対ドルで下落している。その結果、ドルは全体の第2位に位置していることになる。そして、ドルに対して唯一上昇している「ある通貨」とは、スイスフランだ。
対ドルで約7%も上昇しており、言わば安全資産の面目躍如たる値動きだ。スイスフラン/円相場も史上最高値を更新し続けている。
<かつての面影ない円>
安全資産と言えば、その代名詞はこのスイスフランよりもかつてはむしろ円であった。ところが、今となってはすっかりその面影もなくなってしまった。実際、今年3月、米銀が相次いで破綻した場面では、ドル/円も138円台の手前から130円割れまで急落するなど一時的にその片鱗をみせた。
ただ、それは主にドル安によるものだ。その証拠にその後もドル安が進む中で、ドル/円だけ持ち直しに転じた。当時の先物市場における投機筋の円ポジションをみると、高水準まで膨らんでいた円ショートが縮小し、一定の円高圧力は加わったかも知れない。
しかし、肝心の円ロングはほとんど増えなかった。近年なかったほどに金利差が広がった結果、ネガティブキャリー(金利の逆ザヤ)をもたらす円ロングの構築は敬遠されているようだ。当面、「リスク回避の円買い」が空しく響く期間が長引きそうだ。
<スイスフラン高の源泉>
それでは、話をスイスフランに戻そう。対ドルで唯一、上昇したスイスフランの金利水準は、ドルをしのいで上昇したのかと言えば、全くそうではない。
政策金利は、昨年2月末のマイナス0.75%から1.75%まで2.5%ポイント引き上げられたが、それでも米国の利上げ幅の半分に過ぎない。
2年物国債や10年物国債の金利差も同様だ。昨年2月末と比べた金利差(米ドル金利-スイスフラン金利)は、2年債で428bp、10年債でも121bpほど拡大しており、ドル高・スイスフラン安が示唆されている。
従って、スイスフランには、こうした金利差から生じる下落圧力を上回る上昇圧力が加わったことになり、その要因が安全資産の座から転落した円にも関係しているとみられる。
<安全資産の条件とは何か>
安全資産に関する先行研究をみると、経常収支や対外純資産の存在を挙げている(例えば「増島2019」)。その点、日本は依然として経常黒字を維持している上、世界最大の対外純資産国の座も保ったままだ。
ただ、対国内総生産(GDP)比でみた経常黒字は、2021年の3.9%から2022年は2.1%へとほぼ半減してしまっている。対照的に、スイスの場合、経常黒字は同期間に同7.9%から9.8%へ大きく増加している。
日本の場合、経常収支の悪化を招いたのは、貿易赤字の拡大である。月次の貿易統計データから、統計的に有意な形での為替相場へのインパクトを計測するのは容易ではないが、貿易赤字が円安に作用するとの見方に異論を挟む余地はほとんどない。何より、貿易赤字の拡大は市場参加者の円安期待を高め、投機筋の売買を通じて自己実現的に円安に波及する側面もあるだろう。
スイスフランの値動きは、円安要因として対外金利差の拡大に加え、貿易赤字の拡大による経常収支悪化の存在も示唆している。そこで、貿易収支の現状を確認しておこう。
<見込みにくい生産拠点の国内回帰>
今年6月の貿易収支は、約430億円と少額ながら1年11カ月ぶりに黒字を回復した。国際的な資源価格の下落を受けた輸入額、数量の減少が主因だ。
もっとも、このまま改善傾向をたどるとは考えにくい。まず、輸出をみると、2018年をピークに数量が減少傾向を続けている。主に、生産拠点の海外シフトによるとみられるが、本来であればこれほどの円安を受け、国内回帰の動きがみられても不思議ではない。
しかし、2011年に帝国データバンクが約1万1000社に対して行ったアンケートによれば、海外進出(産業空洞化)の背景は、為替(当時は円高懸念)のほか高い人件費、電力などエネルギーの供給問題、税制、取引先の海外移転、人口減少など多岐にわたる。
一部で報じられている国内回帰は、国内外双方の生産拠点を維持できる大企業に限られる。中堅以下の企業では、海外移転時に国内工場を閉鎖するのが普通だ。しかも、今さら国内に戻ったところで人手不足に直面する。日本全体でみると、国内回帰の流れが定着する環境にない。
<高止まりが続く鉱物性燃料>
輸入についてもこのまま輸入額の減少が続くかは、不確実性が高い。国際商品市況のうち、例えば、原油価格の場合、石油輸出国機構(OPEC)やOPECプラスが減産で相場の下支えに努めるだろう。ウクライナ産穀物の輸出合意をロシアが停止したことで、小麦などの価格高騰も危惧される。
また、年内の再稼働の方針が示された国内7基の原発の中で、関西電力高浜原発1号機、2号機を除けば、再稼働時期のめどが立っていない。当面、数量ベースで依然として高水準の鉱物性燃料の輸入が必要だろう。輸出入双方のこうした事情に照らすと、貿易赤字の拡大にこそ歯止めがかかっても、安定した貿易黒字体質への回帰までは見込めない状況だ。
<見通せない日銀の本格的利上げ>
かつて、ともに安全資産とされながら、対照的な値動きを示すスイスフランと比較すると、円が安全資産の地位を再び取り戻すためには、ある程度の金利上昇と貿易黒字の回復が求められそうだ。
内外金利差が縮小すれば、円ロング構築のしづらさも和らぎ、多少はリスク回避の円買いも期待できる。高水準の円ショートが積み上がることも減るだろう。
しかし、日銀は今月14日、過去25年間の金融政策を分析する「多角的レビュー」に関して、今年12月ごろと来年5月ごろに、ワークショップ(討論会)を開いて外部意見を取り入れるといったスケジュール感を示している。
多角的レビューが日銀の金融政策判断にどのような影響を及ぼすのか現時点で即断できないが、それ以前にYCCの修正があるにせよ、円金利の上昇幅はかなり限られそうだ。
貿易収支に関しても、日本の赤字は一過性というより、構造的に変化した側面も多分に含んでいるように見受けられる。足元では昨年と異なり、米ドルの先高観が大きく後退している。円安だけではドル/円が150円の大台に達するのは容易ではないだろう。
ただ、その一方で、安全資産の地位から転落した円を見るにつけ、ドル/円の130円割れもまたかなり遠いと言えるのではないか。
編集:田巻一彦
(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
*内田稔氏は、高千穂大学商学部准教授、FDAlco外国為替アナリスト。慶應義塾大学卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。マーケット業務を歴任し、2012年から2022年まで外国為替のチーフアナリスト。22年4月から現職。J-money誌の東京外国為替市場調査では2013年より9年連続個人ランキング1位。国際公認投資アナリスト、証券アナリストジャーナル編集委員、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、経済学修士(京都産業大学)。
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