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概要:円安・ドル高基調の為替の値動きが日々報道されますが、実際に日本の円は、ユーロとドル、それぞれに同じだけ「安く」なっているというのが現状です。この相場が変化するシナリオとはどんなものか、エコノミストが解説します。
東京・渋谷の外貨両替店の店頭レート。9月15日の昼時点では1ユーロ161.88円で両替していた。米ドルは150.81円。
撮影:Business Insider Japan
2022年は急速に進んだ円安が問題となったが、2023年になっても基調としての円安は続いている。2023年の取引初日(1月2日)のドル円レートは終値で1ドル=130.73円だったが、9月14日現在では147.46円と、約13%下落している。日銀が金利を据え置く一方で、米連銀(FRB)が金利を上げ続けていることが円安の主因だ。
また円相場は、米ドルばかりではなく、欧州連合(EU)のユーロに対しても下落している。2023年の取引初日のユーロ円レートは終値で1ユーロ=139.38円だったが、9月14日時点では156.93円まで下落した(図表1 )。下落幅は約13%と、ドル円相場と同様である。つまり、円の価値は対米ドルと対ユーロで同じだけ下落している。
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ユーロとドルは「行って来い」状態の一方、日本円は……
実際に、今年のユーロドル相場は、1ユーロ=1.08米ドル前後で安定して推移しており、いわゆる「行って来い」(編注:相場差異が小さい状態)の展開となっている。日本円・米ドル・ユーロの三極通貨のうち、これまでのところ、今年の最弱通貨もまた、残念ながら日本円ということになる。むしろユーロでも売りが先行しているという点で、今年の円安の方が深刻かもしれない。
【図表1】2023年のユーロ相場。日次の終値ベースで集計。
出所:欧州中銀(ECB)
それではなぜ、今年に入ってユーロが買われて日本円が売られているのか。
最大の要因は、金利にあると考えられる。基本的に、昨年来の為替相場は「金利ラリー」の様相を呈している。信用力が高い通貨のうち、金利が高い通貨が買われて、金利が低い通貨が売られる。金利が高いユーロや米ドルは買われるが、低い日本円は売られることになる。
そして、ヨーロッパのディスインフレ(インフレの鈍化)が米国に比べて遅れていることに加えて、日銀の政策修正が投資家の想定よりも遅れていることが、円売りユーロ買いの流れにつながっていると考えていい。ECBは9月の政策理事会でも政策金利を0.25%引き上げ4.5%としたが、日銀は▲0.1%のままで据え置いている。
注目すべき貿易収支の問題
【図表2】貿易収支の対GDP比の推移。4四半期後方移動累積ベースで集計。
出所:欧州中銀、日銀
金利の動きは、為替レートの「波」を作るものといえる。その「波」以上に重要なのが、通貨の需給の「土台」を成す貿易収支の動きだ。
基軸通貨である米ドルを発行する米国を除き、貿易収支が赤字であることは、自国通貨に強い売り圧力がかかっていることを意味する。一方で黒字であれば、自国通貨に買い圧力が生じていることになる。
2022年に入って、日本の貿易収支は赤字が一気に膨らんだ(図表2)。これはロシア発のエネルギーショックを受けて、石油やガスといった化石燃料の価格が高騰したためだ。
ロシアのプーチン大統領。
Sputnik/Mikhail Metzel/Kremlin via REUTERS
貿易赤字は2023年1-3月期に最悪期を脱し、単月で黒字となる月も出てきたが、基調としては依然として赤字であり、これが円安の「土台」を成している。
一方でユーロ圏の貿易収支も、日本と同様に、ロシア発のエネルギーショックを受けて急速に黒字幅が縮小し、2022年後半には赤字に転じた。しかし2022年10-12月期には底打ちし、赤字は圧縮するとともに、2023年4-6月期には黒字に転じた。つまり、ユーロ高は、金利のみならず、実需の面からも支えられていることになる。
通貨の需給の「土台」を成すものとして、一時、貿易収支ではなく経常収支(貿易収支+サービス収支+第一次所得収支+第二次所得収支)に注目する動きがあった。日本の経常収支は2023年4-6月期時点で名目GDP(国内総生産)の2.2%の黒字であり、同0%のユーロ圏よりもしっかりしているが、円相場を下支えしているとはいえない。
日本の経常収支の黒字の源泉は、第一次所得収支(対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等の収支)だ。モノやサービスの取引で海外から収益を得た場合、外貨を円に交換する動き(つまり円高圧力)が生じるが、投資から得た収益の場合、そのまま海外に再投資されてしまうことが多いため、円高圧力につながりにくいのである 。
日本円が「円高・ユーロ安」となりうるシナリオとは
羽田空港 出発ロビーの様子。
James Matsumoto / SOPA Images/Sipa USA
「波」の面でも「土台」の面でも、ユーロは日本円に比べて買われやすい状況であるため、2023年の円相場は、ユーロに対して一方的に円安となっている。とはいえ、この流れは、ECBの利上げの終幕が意識される中で弱まりつつある。来年以降、インフレが落ち着けばECBも金利を下げてくるため、多少なりとも円は買い戻されるだろう。
それに、日銀の政策修正が進めば、これも円の買い戻しにつながるはずだ。日銀がマイナス金利政策を撤廃し、緩やかではあるが利上げを進めるようになれば、金利差が縮小することから、日本円はユーロに対してもある程度は買い戻されることになる。とはいえ、貿易収支の赤字のままでは、円相場の上昇幅も限定的となるはずだ。
日本円がユーロに対して大きく買い戻されるときは、以下のようなリスクが顕在化したときだろう。
1. まずヨーロッパが本格的な金融不安に陥るケース
まず、ヨーロッパが本格的な金融不安に陥ることだ。急速な利上げの結果、2023年3月に米銀大手のシリコンバレー銀行(SVB)が経営破たんし、その流れを受けてスイスの金融二位クレディスイスも実質的な経営破たんに追い込まれた。
その後、欧米の金融市場は小康状態を保っているが、本質的には不安定な状況にある。したがって、何かのショックが市場を駆け巡った場合、金融市場は不安定な状況に陥りやすい。こうした中で、特に注目されるのが、イタリアの動向だ。イタリアの金融市場は、ECBによるサポートがあってようやく安定している状況にある。
そのイタリアのメローニ政権は、人気取りのための政策に腐心している。ECBの利上げで金利収益が増えた金融機関に対して「棚ぼた税」を課したことは、その最たる事例だ。当然、イタリアはEUとの対立を深めているが、この対立が先鋭化すれば、イタリアのみならず、ヨーロッパ全体の金融市場が不安定化することになる。
2. 住宅価格の下落から生じる金融不安のケース
金融不安は別の経路からも生じうる。例えば、これまでのECBによる利上げを受けて、ヨーロッパの住宅市場は調整を強めている。住宅価格は下落し、銀行の住宅ローンの不良債権も増えている。今のところは銀行の経営が強く圧迫されていないが、住宅価格の下落が一段と進めば、銀行の経営が悪化し、金融不安につながる恐れが大きい。
3. ヨーロッパが「厳冬」になってしまうケース
それに、厳冬リスクも看過できない。次の冬が厳しいものとなれば、暖房需要が増すため、天然ガスの価格も上昇を余儀なくされる。そうなればヨーロッパでディスインフレが進まないばかりか、インフレが再加速する展開も視野に入る。さらなる利上げが実施されれば景気が腰折れするため、投資家はさすがにユーロを売るはずだ。
ユーロに対して円はどの程度買い戻されるのか
日本ではドル円レートに注目が集まりがちだが、ユーロは米ドルに次いで、世界で二番目に交換の機会が多いメジャー通貨である。そのためユーロ円レートもまた、日本経済の現状を映し出す鏡となる。次に日本円が買い戻される局面が来たとき、ユーロ円レートはいったいどの程度、円高ユーロ安が進むのか、注視したいところだ。
ユーロは本質的には弱い通貨だ。その最大の理由は、ユーロを導入している20カ国の財政が統合されていないことにある。どこかの国で経済危機が生じた場合、その支援に時間がかかるため、投資家の信用が揺らぎやすい。そうした通貨であるユーロに対しても円高が限定的なら、残念ながら、日本円の信認そのものが着実に揺らいでいるとしか、考えようがない。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です
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