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概要:ありふれたプライベートクレジット案件のように見えた。オークヒル・アドバイザーズやアンタレス・キャピタル、ゴラブ・キャピタルといった業界大手がエンジニアリング会社の買収資金として5億ドル(約710億円)を提供した。
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2023年12月22日 10:14 JST
大手銀行は直接金融業者に借り手を奪われ巨額の手数料を失った
レバレッジド融資ビジネスの将来、銀行がどう適応するか次第
ありふれたプライベートクレジット案件のように見えた。オークヒル・アドバイザーズやアンタレス・キャピタル、ゴラブ・キャピタルといった業界大手がエンジニアリング会社の買収資金として5億ドル(約710億円)を提供した。
しかし、貸し手リストの最後に目を引く名前があった。ダイレクトレンディング(直接融資)の世界では新参組のJPモルガン・チェースだ。
JPモルガンが参加したリンゼー・ゴールドバーグ・アンド・ベッセマーによるエンジニアリング会社クラインフェルダー・グループの買収のための融資は、同行が直接融資のイニシアチブを強化して以降に行った数少ない融資の一つだ。
JPモルガンは、ほぼ全てのライバル銀行と同様、レバレッジドファイナンス部門がリスクの高い企業への融資で、プライベートクレジットに押され気味なのを何年も見てきた。潤沢な資金を持つこれらノンバンクの貸し手は、買収に有利な条件を提示しより大規模な取引を行うことができる。
今、銀行は浸食を食い止めるために新たな手段を試みている。JPモルガンだけではなく、シティグループやバークレイズ、モルガン・スタンレーなどもこの事業への参入を急いでいる。
具体的に何をするのかは銀行によって異なる。しかし最も基本的な要素に絞ると、採用しているモデルは多くの点で、銀行が得意としてきたレバレッジドファイナンスと驚くほどよく似ている。
規制上の制約に阻まれ自己資金を長期にわたって投入することができないため、銀行は企業顧客との広範なネットワークを生かして案件をまとめ、資金調達で懐の深い投資家と組み、仲介役として手数料を得ようとしている。
最大の違いは、ビジネスの順序が逆転していることだ。通常、銀行はまず貸し付けのコミットメントを行い、その後にジャンク(投機的格付け)債やレバレッジドローンの形でこの債権の一角を買いたい顧客を見つける。
そのため、借り入れコストが急上昇したり、投資家が手を引いたりすると、銀行がローン債権を抱えることになる。今は資産運用会社にプライベートクレジット案件を持ち込ませているため、債権の買い手は事前に用意されていることになる。
「銀行は自己資金を貸し付けずに手数料を得る方法を見つけようとするだろう。レバレッジドファイナンスは銀行のビジネスモデルの中核を成すものであり、その市場を奪還できなければ、収益性に大きな打撃を受けることになる」とアキン・ガンプ・ストラウス・ハウアー・アンド・フェルドのスペシャルシチュエーション・プライベートクレジット部門共同責任者、ラネシュ・ラマナサン氏は話した。
プライベートクレジットに潜む危険性について懸念が高まっているこの時期に、このような動きが出てきたことは、銀行が自分たちの縄張りを守る必要性を強く感じていることを裏付ける。
成功すれば、銀行は今後何年にもわたって最大規模のデットファイナンス案件での役割を確保できる。失敗すれば、さらに数十億ドルの潜在的手数料を失うだけでなく、投資銀行業務全体の歯車をうまく回すための顧客との関係も失うことになる。
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多くの銀行幹部がインタビューで、ダイレクトレンダーがここ数年で急速に市場シェアを獲得したことにウォール街が不意を突かれたことと、この変化が今後も続くだろうことを認めた。
企業がプライベートクレジットを利用するようになったのは、資金調達の速やかさや少数の貸し手とだけ交渉すればよいという簡便さ、取引条件の柔軟性などが理由だ。プライベートクレジットの残高は現在、世界全体で1兆6000億ドルを超え、今後数年でおよそ2倍になると予想する向きもある。このため、銀行はこの流れに乗ろうと躍起だ。
JPモルガン
リンゼー・ゴールドバーグによるクラインフェルダー買収でのJPモルガンのアプローチは業界で最も大胆なものだと市場関係者は言う。
同行は100億ドル以上のバランスシートを案件獲得のために割り当てているが、今後さらに増える見込みだ。とはいえ、アポロ・グローバル・マネジメントやブラックストーンなど、合計で数千億ドル規模のプライベートクレジット戦略を運用する企業に比べれば、たかが知れている。
そのため、同行はより多くの案件に参加し、より大きなコミットメントができるようにするためサードパーティーファンドを模索している。
ブルームバーグが今月報じたところによると、JPモルガンはプライベートクレジット会社とシンジケーショングループの設立について協議。グループのメンバーはJPモルガンがオリジネートしたローンに資金を提供し、同行は仲介サービスに対して手数料を徴収する。オルタナティブ資産運用会社に加え、政府系ファンド(SWF)や年金基金、寄付財団とも話し合いをしている。JPモルガンの広報担当者はコメントを控えた。
大半の銀行は、プライベートクレジット事業を拡大する中で、自己資金をかなり少額にするか、まったく投入しないことを目指している。
これは、金融危機後の規制により、銀行がバランスシート上にリスクの高い負債を保有することの負担が大きくなり、融資が不良化した場合に備えて追加資金を保持することを義務付けられたためだ。
間近に迫った国際的な資本規制「バーゼル3」では、必要な資本バッファーが引き上げられる見通しだ。レバレッジドレンディングのガイドラインは、銀行が企業に提供できる融資の収益に対する割合を制限している。
その反面、プライベート資産に資金を振り向ける投資家が増えるにつれ、多くのダイレクトレンダーはバイアウト案件が十分でない中で現金の山を抱えることになった。銀行との提携は独占的なディールフロー、特に通常であれば関係を築くのに何年もかかるような法人顧客からのディールフローへのアクセスを可能にする。
バークレイズとシティ、野村
バークレイズは最近、バランスシート上の資金を直接融資に割り当てた。直接融資を数十億ドル規模に成長させることを計画している。また、アブダビ投資庁などから外部資金を集めるためAGLクレジット・マネジメントとの提携を図っている。
シティは新たな直接融資戦略を開始するため、予備交渉を行っている。この戦略には、融資のための資金を提供する1社以上の外部パートナーとの提携が含まれる。
野村ホールディングスは今後1年半の間に約10億ドルの自社資金をプライベートクレジットに割り当てる予定だ。
バークレイズとシティ、野村の担当者はコメントを控えた。
ストレスの兆し
しかし、こうした提携がうまくいったとしても、銀行が借り手の発掘に果たす役割から得られる手数料は、シンジケート案件の引き受けや販売、取引で得ていた手数料よりもはるかに低くなる公算が大きいと、業界関係者は言う。
さらに、プライベートクレジットに参入しようと懸命になるあまり、ウォール街が2年前と同じ過ちを犯さないという保証はない。低金利時代の最盛期におけるレバレッジド融資の行き過ぎによって、銀行は大きな損失を被った。モルガン・スタンレーをはじめとする銀行団は、今は社名を「X」に変更したツイッターのバイアウトのための融資債権を数十億ドル抱えている。
金利上昇にもかかわらず融資ポートフォリオが底堅く推移しているとダイレクトレンダーは言うが、市場にはストレスの兆候も見え始めている。
S&Pグローバル・レーティングは7-9月(第3四半期)、プライベート市場を通じて借り入れた91社の信用評価(格付けほど厳密ではない評価)を引き下げたが、引き上げは19社にとどまり、その比率はほぼ5対1だった。
最近のリポートによると、これは広範なシンジケート市場を通じた企業への融資債権の格下げと格上げの比率がおよそ1.4対1であったのをはるかに上回るものだった。
ムーディーズ・インベスターズ・サービスは最近、今後数年間は銀行と直接金融業者が資本を投入しようとする「底辺への競争」が起こり、価格や条件、信用の質が低下すると警告。UBSグループのコルム・ケレハー会長も先月、プライベートクレジットを「資産バブル」と呼び警鐘を鳴らした。
キング・アンド・スポールディングのプライベートクレジット・スペシャルシチュエーショングループ責任者のジェニファー・デイリー氏は「本当に興味深いのは、デフォルト率が高い環境になった時にパートナーシップがどのように展開するかだ」とし、「人々が追い詰められ、債務不履行をどのように計上するかを初めて考える時が正念場だ」と話した。
銀行幹部がプライベートクレジット市場参入の足がかりを得ようと躍起になっている理由の一つは、レバレッジドレンディングがキャッシュマネジメントやヘッジ、M&A助言など他の多くの業務への入り口として機能していることだ。
多くの経営幹部は、プライベートクレジット戦略がなければ、広範な投資銀行業務がいずれ顧客を失うことになりかねないと懸念を表明した。
ジェフリーズ・クレジット・パートナーズのミドルマーケット直接融資戦略の最高投資責任者(CIO)ジョン・リグオリ氏は、「銀行は、手をこまねいてレバレッジドファイナンス・ビジネス全体を無に帰させるようなことはしない」として、「より多くの資金が流入し、プライベートクレジットのリターンが大きくなり、運用者がより多くの資金を調達できるようになる中で、これはわれわれの市場の自然な進化だ」と述べた。
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