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概要:高島修 シティグループ証券チーフFXストラテジスト [東京 14日] - 筆者が定期的にアップデートしている「ファンダメンタルズ・モデル」に基づくドル/円のフェアバリュー(適正価格の推計値)は、現在120円前後に位置する。実際の相場は110円前後と10円近く下振れているが、この推計値と実勢は上下最大10円程度かい離することが多い。 瞬間的に104円台へ急落した「フラッシュクラッシュ」で始まった今年のドル円相場だが、筆者が下振れ余地は限定的で、むしろドル高/円安余
高島修 シティグループ証券チーフFXストラテジスト
[東京 14日] - 筆者が定期的にアップデートしている「ファンダメンタルズ・モデル」に基づくドル/円のフェアバリュー(適正価格の推計値)は、現在120円前後に位置する。実際の相場は110円前後と10円近く下振れているが、この推計値と実勢は上下最大10円程度かい離することが多い。
瞬間的に104円台へ急落した「フラッシュクラッシュ」で始まった今年のドル円相場だが、筆者が下振れ余地は限定的で、むしろドル高/円安余地が残されているとの見方を示してきた一つの理由は、このモデル分析の示唆による。
現在も年央から秋口にかけ、ドル円はジリ高で推移するとの見方を維持している。
<フェアバリューは上昇基調>
このモデルの詳細は割愛するが、日米金融政策のギャップを反映する3つの変数と、日本の国際収支を反映する2つの変数を用いている。
過去を振り返ると、2015年夏にドル/円の実勢相場が125円でピークアウトした際、フェアバリューはその直前に118円前後で頭打ちとなった
実勢相場が100円前後に下落した2016年前半から年央にかけては、105円付近まで低下した。その後は110円前後を上限に横ばいで推移していたが、昨年になって上昇基調を取り戻し、現在に至っている。
こう書くと、このモデルの的確さをアピールしているように聞こえるかもしれないが、筆者の本意はそうではない。上述の通り、相場を取り巻くその時々の環境次第で、実際は推計値から上下に10円程度振れる。
確かに決定係数が0.8を超えるなど、統計的な信頼度はかなり高いと言えるが、逆に言えば、そこが月次統計を基礎とするファンダメンタルズ・モデルの限界である。為替相場ではそうした10円の上振れ、下振れが市場参加者の関心を捉え、損益を支配する。
フェアバリューから実勢相場がかい離する動きを市場の「ミスプライシング」と呼ぶなら、その差異を追求することこそ筆者のようなアナリストに求められる仕事だ。フェアバリューは、ミスプライシングをより的確に把握するための道具に過ぎない。
つまり、いま考えるべきは足下のドル円はなぜ推計値から10円近くも下振れているのかということになる。しかも、ドル円が推計値から下方にかい離するのは、対ユーロを中心に全面的なドル安のときが多いが、過去1年間はドル高基調の中で下振れてきた。
<中国の返り血を浴びたトランプ米政権>
前回、こうした事態が大規模に発生したのは2010年前後だった。当時は欧州債務危機でユーロ安/ドル高が進む中、リスク回避の円高圧力が強まった
今回は、米株が急落した2018年2月の「VIX(恐怖指数)ショック」に端を発し、新興国市場を巻き込み、同年末まで続いたリスク回避相場の影響が大きかったと考えるのが自然だろう。
その震源地となったのは中国だ。同国における著しい債務拡大を最大のリスク要因として、市場が不安を募らせる中、トランプ政権がし烈な貿易戦争を仕掛け、元安観測に火をつけた。中国からの資金逃避懸念につながった。これが昨年のリスクオフ相場の本質だと筆者は考えている。
だが、中国リスクを警戒して発生した昨年終盤の米株急落で、対中関税の返り血を浴びることになったトランプ政権は、いったん中国との休戦に動き始めたようだ。
こうなると、これまで中国政府が財政、金融、通貨の各政策を総動員してきた景気押し上げ効果が、顕在化してくる公算が大きい。市場のセンチメントもリスクオンへと転換し、ドル円は上昇圧力を受けそうだ。
注目すべきは、今回の米中合意に人民元安回避という通貨政策の取り決めが含まれるとみられていることだ。ムニューシン米財務長官は中国に元安誘導を控えるようを要請すると語り、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表も元安回避に期待をにじませる発言をしている。
すでにハト派に傾いている米連邦準備理事会(FRB)は、元安防止のため一段とその色合いを強める可能性がある。中国にとっては通貨が下落して資本が流出するリスクが低減することから、金融緩和や財政出動など政策の柔軟性が高まり、人民元高に苦しむ経済を下支えすることが可能になる。中国経済の安定は、米国からの輸入拡大に必須の要件である。
海外勢の間では、円高不況回避のために日銀が低金利政策を続けた1985年の日米合意になぞらえ、「プラザ合意2.0」と呼ぶ向きさえ出てきた。
こうなると市場はリスク選好に傾き、上で述べた「ドル/円ジリ高シナリオ」のがい然性も高まる。ただし、中国は元高に伴う輸出競争力の低下を避けるため、対ドルで円安やユーロ安、韓国ウォン安が進むのを嫌がるだろう。
トランプ政権は、中国が元安回避の約束を守る限り、円安やユーロ安には静観を決め込むとみられる。
しかし、仮に円だけでなく、ユーロやウォンもそろって対ドルで下落した場合、米国はドル高が自国経済に与える影響もさることながら、元安誘導を控えるとした約束を中国が反故にするかもしれない、と警戒を強める可能性がある。日銀や欧州中央銀行(ECB)の金融緩和に対する風当りも強まるだろう。
<米国は円の独歩安なら黙認か>
具体的には、ユーロ/ドルが1.10ドルを割り込み、ドル/円が115円を超えるような展開になると、こうしたシナリオへの警戒感を強める必要が出てくる。
米中による「プラザ合意2.0」の下では、円の独歩安は黙認されやすいとみられるが、ドル全面高の中で円安が進行すると、米国から日本に対し、通貨政策面での圧力が強まる恐れがある。向こう1年程度の時間軸を展望する中では、念頭に置くべきシナリオだろう。
一方、今後数カ月程度の時間軸で警戒すべきリスクは、むしろ米中通商協議が予想外に頓挫することだ。トランプ政権が対中追加関税を発動する不安が高まるような状況に逆戻りした場合、米中株安などリスク回避的な市場変化がドル円を反落させる。
また、米財務省が4月半ばに公表する為替報告書で、中国を為替操作国に認定する可能性も格段に高まる。昨年のこの時期にそうしたニュースが流れ、中国が米債投資を抑制するなどの見方が市場に広がった際には、米金利が上昇する中で、リスク回避のドル安が円やユーロに対して進んだ。
気になるのは、2月末にベトナムのハノイで開かれた米朝首脳会談が失望を招く結果に終わったことだ。昨年6月にトランプ大統領が対中関税政策を発表したのは、シンガポールで開催された最初の米朝首脳会談から3日後だった。
2回目の米朝首脳会談に同席したポンペオ米国務長官が、合意内容が万全でなければトランプ大統領が席を立つ準備がある、と語ったことに象徴されるように、対中交渉を巡る米政府関係者の発言は、ここに来て慎重になってきたと筆者は感じている。
短期的には調整によるドル円反落リスクを警戒している。
(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。
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